理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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痛みの想起で、先行姿勢調節機構は遅延する
石川 夏奈子高宮城 あずさ比嘉 俊文島袋 雄樹
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p. Ab0649

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抄録
【はじめに、目的】 ヒトは四肢運動に先行して腹横筋、多裂筋などの深層筋が活動する先行姿勢調節機構(Anticipatory Postural Adjustments:以下APA)が働くことが知られている。Hodgesは腰痛患者ではAPAの活動に遅延が生じることを報告しており、またMacDonaldらによると腰痛が治癒した後もAPAの遅延と腰痛再発の関係性が示されている。つまり疼痛の有無以外にもAPAの遅延因子があることが示唆される。そこで我々の先行研究にて、疼痛への不安感とAPA遅延の関係性を調査した。その結果、疼痛の想起にてAPAの遅延が確認された。このことより、Damasioが述べている、ヒトは一度疼痛を経験すると、前頭前野にその痛みが記憶されている為、疼痛経験を想起すると過去に経験した疼痛を自動的に再現するということと関連する。しかし我々の先行研究において想起したのは痛みのみであり、他の因子を想起させた条件と比較していない。想起をするという行為そのものがAPAに影響を与えているのではないかと疑える。そのため今回、痛みの想起が実際にAPA遅延に関与していることを実証するため、他因子の想起(昨晩の夕食)と痛みの想起の条件下にて比較することを目的とする。【方法】 対象は腰痛症状をもたない健常成人男性10名(平均年齢29.1±8.3歳)とした。方法は超音波診断装置(GE横河メディカルシステム社製U-SONIC Model RTfino リニアプローブ7.5MHz)を使用し、上肢前方挙上時の腹横筋の活動を観察した。拳上動作は、疼痛刺激前・疼痛刺激後・疼痛想起時・夕食の想起時の4つの条件下とした。なお、疼痛想起時には注射針にて腰を穿刺している写真、夕食の想起時にはご飯の写真を見せ、視覚情報を与えている。疼痛刺激は痛覚検査用の検査針にてL3/4近傍を経皮的に刺激し、疼痛刺激後の筋活動の観察は自覚的な疼痛消失後に行った。測定開始肢位はベッド上端座位で両足底接地・骨盤中間位・上肢下垂位とした。超音波診断装置では外腹斜筋と内腹斜筋、腹横筋の境界を表出できるように、ブローブは、臍レベルの水平線と右前腋窩線上の交点に位置させた。各種の超音波イメージと挙上動作(動画)をデジタルビデオカメラに記録しパーソナルコンピュータ上で分析した。挙上動・作開始時を基準とした腹横筋活動のタイミングを表出した。つまり、挙上動作に先行して起こる腹横筋の活動は負の表記で表す事とした。統計学的解析は、一元配置分散分析を用い、その後の検定にはTukey法を使用した。有意水準は1%未満とした。結果は平均値±SEで表記する。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき全ての被験者に本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】 刺激前の腹横筋活動は-0.207±0.104 sec、刺激後は-0.188±0.122 sec、夕食想起・疼痛想起はそれぞれ-0.180±0.111 sec・0.002±0.094 secであった。疼痛想起時とその他の3条件で、有意な差が認められた(p < .01)。【考察】 荻野らは「痛みは情動である」と述べており、特に前頭前野は痛みの情動と深く関与していると述べている。またDamasioは、ヒトは一度疼痛を経験すると、その痛みが前頭前野に記憶されている為、疼痛経験を想起すると過去に経験した疼痛を自動的に再現すると述べている。本研究の結果から、疼痛想起時のみにAPAの遅延が確認された。疼痛想起時のみにAPA遅延が生じるということは、疼痛の有無がAPAに影響を与えるのではなく、疼痛経験を背景とする疼痛想起が大きく影響していることがいえる。今後筋電図などを用いた詳細な研究が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 臨床において疼痛に対する不安感などから、動作が制限される症例を数多くみかける。このことは我々が疼痛など機能面に介入するだけでなく、精神面をも包括したアプローチを提供する必要性の根拠になると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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