理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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オプティック・フローが立位姿勢における外乱応答に及ぼす影響
永幡 哲也森岡 周
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p. Ab0650

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抄録
【目的】 立位姿勢における外乱応答では重心動揺を速やかに収束することが重要であり、ヒトには種々の反射機構や姿勢戦略が備わっている。外乱に対する正確な姿勢応答には視覚、体性感覚、前庭感覚の統合処理が必要とされている。Keshner EA(2004)らは床面の水平移動外乱に対し、視覚性外乱刺激が加わることで姿勢戦略に変容が生じることを報告した。日常生活で経験する環境変化においては、網膜上の光学的配列に基づくオプティック・フロー(optic flow)が外界における空間定位や自己運動の認識に利用されていることが知られている。このため、実生活に即した外乱に対する姿勢応答を議論する上で、このオプティック・フローの影響を検討する必要がある。そこで本研究ではオプティック・フロー映像を用いた視覚環境が一過性床後方移動外乱(以下、床後方外乱)に対する姿勢応答に及ぼす影響を表面筋電図と重心動揺の視点から検証した。【方法】 対象は重篤な既往歴や整形疾患、視覚障害のない若年成人12名(男8名、女4名)とした。オプティック・フロー映像は映像作成ソフトを使用し、黒色背景に白色三角形のランダムドットパターンが常時約200個配置する映像を作成した。PCよりプロジェクターを介し被験者の約1.4m前方に250×160cmの大きさで投影した。視覚条件は(1)速度1m/秒にて放射上に移動する条件(以下、forward条件)(2) (1)と同速度で中心に向けて収束する条件(以下、backward条件)(3)コントロール条件として静止画条件を設定した。床後方外乱には外乱発生用可動式プラットホーム(内田電子社製)を使用し、上部に重心動揺計(アニマ社製グラビコーダG-5500)を設置し重心動揺の計測を行った。計測手順は事前に各視覚条件間の静的立位保持を重心動揺計より動揺中心偏位、Y方向軌跡長を計測し、視覚条件が静止立位保持に及ぼす効果を検証した。次いで各視覚条件下での床後方外乱を行った。視覚条件は乱数表を用いランダムとし、試行回数は各視覚条件で3回ずつ計9回行った。計測項目は重心動揺計より最大Y軸変位量、筋活動は表面筋電計(sx230;DKH株式会社)より導出し、被験筋を一側の大腿四頭筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋として筋潜時ならびに外乱発生後50msec毎に筋積分値を算出し、その最大値をピーク値として抽出した。計測項目は各視覚条件における3回の平均値を代表値として比較を行った。統計処理には反復測定一元配置分散分析を行い、多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者には本研究の主旨を説明し研究の参加に対する同意を得た。なお本研究は畿央大学研究倫理委員会にて承認を得ている(承認番号:H23-10)。【結果】 視覚条件における静止立位保持への影響では、動揺中心偏位は各条件で有意差を認めず、Y方向軌跡長においてコントロール条件に対し、forward条件ならびにbackward条件で有意な延長を認めた(p<0.01)。視覚条件と床後方外乱の同時刺激において最大Y軸偏位量ではコントロール条件ならびにbackward条件に対し、forward条件で有意な増加を認めた(p<0.05)。筋潜時ではforward条件での下腿三頭筋のみ有意な遅延を認めた(p<0.05)。その他の項目においては視覚条件間で有意差を認めなかった。【考察】 静止立位保持においてはforward条件、backward条件ともにY方向軌跡長の延長が見られ、視誘導性身体動揺が生じたものと考えられる。視覚条件と床後方外乱の同時刺激では各筋活動の開始順序やピーク値において視覚条件間に差はみられず、すべての条件で足関節戦略によって対応したものと考えられる。またKeshner EA(2004)の報告とは異なり、姿勢戦略の変容は認めず、forward条件においてのみ下腿三頭筋の筋潜時の遅延とそれに伴うY軸偏位量の有意な増大として観察された。各映像条件による相違はオプティック・フローの方向に基づいたものである。forward条件では視覚的な空間認識の変容に対し、残された体性感覚と前庭感覚から床後方外乱に対する正確な姿勢応答を生成することが必要となり、中枢での統合処理過程が筋潜時の延長に関与していることが示唆された。一方、backward条件においては床後方外乱に対する身体の逆振り子現象による頭部の前方移動がオプティック・フロー映像の相対的速度を減弱させることとなり、視覚刺激の影響を減弱させたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から視覚と体性感覚の同時刺激による複合的な外乱応答課題では、その組み合わせによって異なる姿勢反応が生じることが示唆された。環境変化に富む日常生活におけるバランス能力の回復には複数の要因の相互作用によって生じる現象についても考慮する必要があると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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