理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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股関節周囲への圧迫刺激が静止立位時重心動揺に与える影響
與川 大樹桐内 修平髙橋 朋也濱谷 悠三浦 綾沙本間 里美小林 武
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p. Ab0669

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抄録

【はじめに、目的】 運動失調の介入法のひとつとして弾性緊縛帯(以下、緊縛帯)装着が行われており、臨床ではその効果が広く認知されている。Takahashiら(1977)は小脳運動失調症者の四肢を圧迫することによって失調症状の減少を認めたと述べている。しかし、本井ら(1992)は脊髄小脳変性症者に緊縛帯を装着して重心動揺を調べたが、一定の効果は証明されなかったと報告している。このように緊縛帯の効果は科学的に証明されているとは言い難く、特に具体的な圧迫力とそのアウトカムとの関係については報告されていない。そこで我々は、立位時に股関節の周囲に定量的圧迫刺激を加えると固有受容感覚増加によって重心動揺が減少すること、そして閉眼時では固有受容感覚情報への依存度がより大きくなることから、圧迫刺激の効果がより顕著に表れるのではないかと推測した。本研究は以上2点の仮説を検証することを目的とした。【方法】 対象は健常成人22名(男性14名、女性8名、21.6±0.1歳)とした。使用器具として重心動揺計(ユニメック社製:JK-101)、水銀血圧計とその大腿用カフを用いた。殿部の圧迫にはカフを2枚つなげ、その上端が腸骨稜の高さになるように装着した。大腿部圧迫にはカフを1枚ずつ使用し、その上端が大腿最近位の高さになるように装着した。圧迫力は疼痛を生じさせず、かつ適度な圧迫感となる30mmHgに設定した。測定条件は視覚情報の有無と股関節周囲への圧迫刺激の有無の2要因を組み合わせた4条件とした。測定姿勢は裸足での10cm開脚立位とし両上肢は自然下垂位とした。被験者には視線の高さの2m先に設置した目印を注視するよう指導した。1回の測定は開脚立位を60秒間保持させ、その後半30秒の総軌跡長(mm)と外周面積(mm2)を測定した。4条件はランダムに配置し、各測定間には座位にて1分間の休憩を設けた。同様の測定を翌日以降に再試行し総軌跡長がより短い値を示したパフォーマンスのデータをそれぞれの代表値とした。圧迫刺激の有無と視覚情報の有無の2要因の影響について被検者内計画による二元配置分散分析を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究内容と実験方法、そして個人情報の取り扱いについて説明し書面にて同意を得た。【結果】 a:開眼+圧迫刺激なし、b:開眼+圧迫刺激あり、c:閉眼+圧迫刺激なし、d:閉眼+圧迫刺激あり、として結果を以下に記載した。1.総軌跡長(mm)  a:218.9±88.4、b:182.6±54.8、c:247.8±91.1、d:215.0±82.8となり、視覚情報の有無と圧迫刺激の有無の2要因はそれぞれ有意な主効果を認めた(p<0.05)。すなわち、開眼条件では圧迫刺激ありの方が無しよりも36.6mm(16.6%)有意に減少し、閉眼条件では圧迫刺激ありの方が無しよりも32.8mm(13.2%)有意に減少した。交互作用はなかった。2.外周面積(mm2  a:83.5±72.0、b:48.6±24.7、c:125.1±88.8、d:67.2±46.0となり、視覚情報の有無と圧迫刺激の有無の2要因はそれぞれ有意な主効果と交互作用を認めた(p<0.05)。すなわち、開眼条件では圧迫刺激ありの方が無しよりも34.9mm2(41.8%)有意に減少し、閉眼条件では圧迫刺激ありの方が無しよりも57.9mm2 (46.3%)有意に減少した。さらに圧迫効果は開眼時よりも閉眼時で有意に大きい結果となった。【考察】 視覚条件に関わらず圧迫刺激により重心動揺は減少した。Manoら(1979)は、微小神経電図の研究で、緊縛帯によるアプローチが筋紡錘からの求心性活動を上昇させると述べている。本研究でもそれと同様に求心性活動上昇が起こり、股関節周囲からの固有受容感覚入力が増加したことが予測される。そして増加した求心性入力が小脳の情報処理過程に有利に働いたことで、より協調的な出力としての重心動揺減少が観察されたのではないかと考えられた。外周面積は閉眼時において開眼時よりも圧迫刺激による重心動揺減少効果が大きかった。岸本ら(2008)は、静的なバランス制御において、ある感覚が身体位置を最適な情報として提供できない環境では、相対的に正確な他の感覚に対する重みは増大すると述べている。本研究では、視覚情報を遮断したことで、姿勢制御に利用される固有受容感覚情報の依存度がより大きくなり、それらの情報を増加させる圧迫刺激の効果が相対的に大きくなったものと推察された。【理学療法学研究としての意義】 股関節周囲への30mmHgの定量的圧迫刺激が静止立位時重心動揺を減少させる効果があることが証明された。このことは立位バランス障害に対する介入法の科学的根拠のひとつになり得るものと考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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