理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
前方リーチ動作における脊椎アライメント分析と足圧中心の関係
小林 敦郎渡邊 大輔鳥屋 優太吉川 雄太郎石井 啓太松下 昌敬河野 隆志
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p. Ab0670

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抄録

【目的】 リーチ動作は,臨床において使用頻度の高い測定項目であり,動的バランス能力をみる指標などに広く用いられている.リーチ距離に関与する身体機能の因子については,足圧中心(以下COP)や足趾把持筋力,体幹屈曲角などが関連するという報告が見られるが一定の見解が得られていない.とくに脊椎のアライメントに着目した文献はみあたらない.リーチ動作時に胸椎,腰椎,仙骨の個々の動きによってはリーチ距離が変化することが予測される.リーチ動作と脊椎アライメント,COPとの関係を明らかにすることは,理学療法介入の示唆を得ることができると考えられる.そこで,本研究の目的は立位姿勢から前方リーチ動作を行ったときの,脊椎アライメントの分析およびリーチ距離,COPとの関係を明らかにすることである.【方法】 対象は健常成人男性28名,平均年齢23.3±4歳,平均身長169.1±6cmである.測定項目はリーチ距離,立位およびリーチ時でのCOP,脊椎アライメント(胸椎弯曲角・腰椎弯曲角・仙骨傾斜角)とした.測定機器は脊椎アライメントにはスパイナルマウス(Index社製),COPには重心動揺計(アニマ社製G-7100)を用いた.測定手順として,対象者は,重心動揺計上にて閉脚立位での脊椎アライメント,COP計測を行いその後,最大限前方へリーチ動作を行った.リーチ動作の測定は,閉脚立位にて丸棒を両手で把持し,肩関節90°屈曲位の姿勢を開始肢位とした.その時の第3中手骨頭を0cmとし,ホワイトボード上に添付したメジャーに沿ってリーチ動作を行った.リーチ動作の静止時間を5秒間とし,その間にリーチ距離,脊椎アライメントおよびCOPを計測した.なお,踵部が浮いたり安定した静止姿勢が保持できなかった場合は再度測定した.また,リーチ距離は身長で正規化して100を乗じた値をリーチ距離として採用,脊椎アライメントでは胸椎と腰椎は,上下の棘突起間を結んだ線に対する垂線がなす角度を矢状面弯曲として抽出,角度表示は後弯角がプラス,前弯角がマイナス表示とした.仙骨傾斜角は鉛直線に対し作る角度とし,前傾をプラス表示とした.COPは安静時とリーチ時の安定している3秒間の平均値を採用,足長の相対比として踵からの%表示とした.リーチ動作は3回行いその平均値をデータ値として採用し,統計学的解析にはpearsonの相関係数と対応のないt検定を用いて有意水準は危険率5%とした.【説明と同意】 本研究に際して,対象者には研究内容についての意義や目的について十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】 リーチ距離は,平均17.2±4 cm,立位時でのCOPは42.8±5%,リーチ時は73.0±6%,COP移動量は30.2±7%であった.脊椎アライメントは,立位時とリーチ動作時で,胸椎弯曲角は41.5±8°,40.9±16°,腰椎弯曲角は-20.3±8 °,3.9±9 °,仙骨傾斜角は11.1±6°, 43.3±9°であった.リーチ動作時には,全例で腰椎弯曲角は後弯方向へ動き,仙骨傾斜角は前傾した.しかし,胸椎弯曲角は前弯と後弯方向へ動くものを認めたため,胸椎前弯群と後弯群で比較したところ前弯群のほうが有意にリーチ距離が長かった.また,リーチ距離とCOP移動量(r= 0.47),仙骨傾斜角(r= 0.42)との間に正の相関関係を認め,リーチ距離と胸椎弯曲角(r=-0.63),胸椎弯曲角とCOP移動量(r=-0.46)との間に負の相関関係が認められた.【考察】 リーチ距離が長ければCOP移動量も大きくなるという結果は,先行研究の大半が支持しているものと同等であった.しかし,COP移動量がリーチ距離に強く関与しているとは言い難く,それ以上に脊椎の動きがリーチ距離に関係していた.リーチ距離と脊椎アライメントの関係から,仙骨が前傾し胸椎が前弯方向に動くものほど距離が長くなるという結果であった.これは仙骨が前傾することで体幹屈曲が増加し,上肢の高さを保つため肩関節は屈曲を強要される.そのため,肩甲骨は上方外転が増加することになり,胸椎伸展させて補償していると考えられた.また,胸椎弯曲角とCOP移動量の関係から,リーチ動作時には,体幹屈曲に伴い胸椎を伸展させることにより,身体重心を前方に移動させ,その結果COPも前方へ移動したと考えられた.本研究においては,リーチ距離にはCOP移動量,脊椎アライメントとくに仙骨の前傾と胸椎の前弯方向への動きが影響を及ぼす可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 リーチ動作は臨床場面で,評価や治療手技のなかで頻繁に使用される動作であるが,その動作の構成する身体因子や意義を理解することは重要である.リーチ動作の先行研究においては体幹屈曲の関連は多く見られるが,脊椎個々の動きの詳細は不明であった.本研究において,リーチ動作やその距離に脊椎の動きが関与する可能性を示せたことは,理学療法介入の一助となりその臨床的意義は大きいと考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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