理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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骨盤傾斜角度が異なる坐位からの立ち上がり動作の運動学的解析
齋藤 麻梨子鈴木 克彦石井 佑果
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p. Ab0696

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抄録
【はじめに、目的】 脊柱円背姿勢の高齢者が端坐位から立ち上がろうとして介助を必要とすることは多い。その要因の一つとして,骨盤後傾位での坐位姿勢が考えられる。しかし,坐位時の骨盤後傾位が立ち上がり動作効率を低下させる報告はほとんど見当たらない。そこで今回,坐位時の骨盤傾斜角度の違いにおける立ち上がり動作を体幹・下肢筋の筋活動,質量中心(CoM)から解析し,骨盤後傾位での立ち上がり動作の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,健常男性10名(年齢21.8±1.0歳,身長172.3±6.7 cm,体重61.2±5.7 kg)とした。課題は高さ40 cmの台の端坐位(膝関節100°屈曲位)で骨盤傾斜角度を設定し任意の速度で立位になることとした。端坐位での骨盤傾斜角度は,中間位が後傾15°~20°,前傾位が前傾0°以上,後傾位が後傾30°以上の3条件とした。筋活動は腹直筋(RA),脊柱起立筋(ES),大殿筋(GM),内側広筋(VM),前脛骨筋(TA),腓腹筋外側頭(GA)から表面筋電図を記録し,最大随意収縮により正規化した%MVCとした。三次元動作解析装置を用いて立ち上がり所要時間,CoM移動距離,CoM速度,体幹最大前傾角度を記録した。赤外線反射マーカーはplug-in gaitモデルに従い設置した。解析は立ち上がり動作を2相(1相:動作開始から膝関節伸展開始まで,2相:膝関節伸展開始から立位まで)に分けて行った。統計はShapiro-Wilk検定後,反復測定分散分析,多重比較検定(Tukey法,Bonferroni法)を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の目的と方法を十分説明し,参加の同意を得たうえで行い,被験者には不利益が生じないよう配慮した。【結果】 端坐位から立位までの所要時間は,骨盤中間位では1.87±0.44秒,前傾位では1.76±0.44秒,後傾位では2.27±0.42秒であり,中間位,前傾位に比べて後傾位が有意に延長した(p<0.01)。筋活動は,1相ではESが骨盤後傾位に比べて前傾位(p<0.05),中間位で高値を示した。2相ではESが骨盤中間位に比べて後傾位で有意に高値を示した(p<0.05)。VMは前傾位に比べて後傾位で有意に低値を示した(p<0.05)。端坐位から体幹最大前傾までのCoM水平移動距離は,中間位25.9±4.3 cm,前傾位20.1±1.9 cm,後傾位27.7±6.4 cmであり,中間位と後傾位が前傾位に比べて有意に延長した(p<0.01)。また,CoM垂直移動距離は,中間位6.7±2.9 cm,前傾位6.9±1.9 cm,後傾位4.6 ±1.9 cmであり,後傾位が中間位と前傾位に比べて有意に短縮した(p<0.01)。体幹が最大前傾するまでのCoM速度は,水平方向では中間位71.3±50.0 cm/sec,前傾位66.9±50.8 cm/sec,後傾位137.1±30.6 cm/secであり,後傾位は中間位と前傾位に比べて有意に速かった(p<0.01)が,垂直方向では差はみられなかった。体幹最大前傾角度は,中間位49.9±11.1°,前傾位44.1±10.2°,後傾位65.3±10.1°であり,後傾位が中間位(p<0.05),前傾位(p<0.01)と比べて有意に増加した。【考察】 骨盤後傾位の端坐位は,中間位・前傾位に比べてCoM高が著明に低く,体幹を前傾してCoMを前下方へ移動させる垂直方向の移動距離が最も短いため,位置エネルギーが最も小さくなる。そのため,1相ではCoMを移動させるための運動エネルギーが他の2条件より必要となるため,体幹をより前傾させることで水平方向のCoM速度が速くなったと考えられる。その結果,2相初期ではCoM速度を急激に制動させる必要がある。さらに,1相でのCoMが最も低位置にあり,2相ではCoMの垂直方向の移動距離がもっとも大きくなる。したがって,骨盤後傾位の立ち上がり動作は2相での脊柱起立筋の筋活動が最も増加する特徴を示した。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の立ち上がり動作は離殿時にバランスを崩しやすく,1相の体幹前傾速度が遅いことが報告されている。今回の結果から,高齢者は筋力低下により股関節屈筋群による前方への推進力を十分発生できず,脊柱起立筋による伸展相での制動が十分に行えないことから,安定した立ち上がり動作を困難にさせていることが示唆された。今後は,円背姿勢の高齢者に対して,股関節屈筋群と脊柱起立筋の筋力増強運動を中心に行い,今回の結果の検証を行いたいと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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