理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
股関節伸展筋の等尺性収縮による非練習側の筋力増強について
高橋 慶恵眞保 実関谷 拓馬長嶋 修平
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p. Ab1054

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抄録

【はじめに】 股関節伸展筋は歩行では立脚中期にて骨盤の安定及び歩行の加速に貢献し、また立ち上がり動作では座面の離殿から立位までに大きな役割を担っている。しかし股関節周囲に疾患を有した場合、その機能面に大きな影響を与える。殊に股関節周囲の手術により大殿筋などの股関節伸展筋への侵襲がある場合、その筋力回復に向けて具体的なプログラム立案には苦労をする。本研究では股関節伸展筋の筋力増強プログラムの方法拡大を目指し、股関節への抵抗運動が困難であることを想定したうえで片側最大負荷における対側股関節周囲筋群への影響を調査し考察を加えた。さらに股関節伸展に直接的に作用する大殿筋の主動作筋としての役割を踏まえ、各種姿勢における股関節周囲筋群への影響も併せて検討した。【方法】 対象は整形外科疾患及び神経疾患等を有しない成人男女各15名、計30名(平均年齢20.4±2.43歳)とし無作為に各群10名(男性5名、女性5名)ずつ3群の筋力増強介入(1)腹臥位で膝関節伸展を伴う股関節伸展(以下腹臥位群)、(2)背臥位で股及び膝関節伸展位での股関節外旋(以下背臥位群)、(3)椅子座位で股及び膝関節90度屈曲位の股関節外旋(以下坐位群)に分けた。筋力の測定は介入前後に実施し、股関節の各運動方向(屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋)を、ハンドヘルドダイナモメーター(μTasF-1、アニマ社)(以下HHD)を使用して両側を測定した。筋力増強介入は3群それぞれの肢位で右側(以下練習側)のみを実施し、HHDを装着しながら抵抗を加え、等尺性収縮での最大筋力を発揮させた。筋力増強の実施時間は開始から3秒後に最大筋力に到達させ、2秒間の保持をさせた。実施頻度は1日1回、週3回で期間は5週間とした。介入前後の筋力の差については統計ソフトSPSS15.0Jを用いて対応のあるt検定を行い、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 対象者に本研究の目的、内容、個人情報の保護などについて口頭で十分に説明し、同意を得たのちに実験を実施した。【結果】 介入前後の筋力測定の結果、3群の介入すべてに有意な筋力増強がみられたのは股関節伸展(練習側、非練習側)、股関節外旋(非練習側)であった。腹臥位群のみで有意な筋力増強がみられたのは股関節内転(練習側、非練習側)、股関節外転(練習側、非練習側)であり、坐位群では股関節外旋(練習側)、股関節内旋(非練習側)であった。【考察】 股関節伸展の主動作筋の一つとして大殿筋が挙げられ、その作用は股関節外旋の主動作筋でもあることは周知のとおりである。ゆえに股関節外旋の筋力増強介入により股関節伸展の筋力向上を得ることは至極当然である。本研究では非練習側の股関節伸展に筋力増強がみられた。これは練習側下肢が最大筋力を発揮する際、非練習側下肢を固定としての役割を高めるために腹臥位群では非練習側下肢の固定点を股関節前面に集中させるために股関節伸展を高め、また背臥位群、坐位群は非練習側下肢全体を固定するために床面および座面に押し付けるため股関節伸展を高めた結果と考える。さらに腹臥位群の介入においては両側の股関節外転、内転に有意な筋力向上がみられ、これは股関節伸展に作用する補助筋の影響があり股関節外転は中殿筋、小殿筋、股関節内転は大内転筋の参加によるものが考えられ、加えて主動作筋である大殿筋において上部線維は股関節外転、下部線維は股関節内転の作用もありこれら相乗の積み重ねによるものが考えられる。本研究の結果から非練習側の筋力向上は手術直後など筋力増強のための直接的な負荷ができない場合に対側の負荷から得ることができるものとして活用が期待できる。しかし股関節周辺及び内部に侵襲があれば、たとえ対側に負荷をかけた場合、非練習側への筋活動を高め、疼痛等への誘発にもなりかねないことも考えられ、有病者への活用するためには負荷量を踏まえた疼痛の発生などの検討は必要である。また今回は腹臥位群、背臥位群、坐位群すべてにおいて股関節伸展の筋力向上がみられ、対象者の可能な姿勢に対応できることによりプログラム立案の幅を広げるものの一助となるであろう。【理学療法学研究としての意義】 本研究の非練習側の筋力向上の結果は理学療法プログラムの立案の工夫に向け、その根拠となるものとして意義あるものである。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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