理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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高齢者の座位リーチと立位リーチの関係
─骨盤傾斜からの検討─
相馬 里江和田 良広宮下 智傳田 貴永大草 裕央
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p. Ab1059

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抄録
【はじめに、目的】 バランス能力の評価の一つとしてリーチ動作があるが,高齢者に対して行う場合,立位保持ができず実施困難となることがある.その際に座位で評価を行う場合が多いが,座位と立位のリーチ動作を関連づけた研究は少ない.そこで本研究は,リーチ動作時の骨盤傾斜角に着目した.リーチ距離と骨盤傾斜角との関係から,座位リーチ動作時の骨盤傾斜角が,立位リーチ動作にどのように反映するかを検討し,高齢者に対する有用な評価,エクササイズの基礎資料を作成することを目的とした.【方法】 対象:肩関節90度以上の屈曲,外転が可能で,既往歴に脳血管障害のない女性12名,男性5名(年齢76.3±6.2歳)を対象とした. 方法:リーチ距離の測定には,伸縮可能な指示棒を用いた. 1)前方リーチ:座位の開始肢位は,耳垂から下ろした垂直線上に肩峰・大転子が位置するよう設定した.指示棒を両手で持ち,肩関節90度屈曲位で可能な限りリーチを行い,移動距離を測定した.立位での開始肢位は,耳垂から下ろした垂直線上に肩峰・大転子・外果前方が位置するよう設定した.座位時同様に両踵が離床しないよう可能な限りリーチを行い,移動距離を測定した. 2)左右側方リーチ:開始肢位は前方リーチ時と同様.指示棒をリーチ側の手で持ち,肩関節90度外転位で両足部が離れないよう可能な限りリーチを行い,移動距離を測定した.立位では座位時と同様に,リーチ反対側の足部外側縁が離床しないよう可能な限りリーチを行い,移動距離を測定した. 3)骨盤傾斜角:ASISとPSISにマーキングし,前方リーチではASISとPSISを結ぶ延長線と床面とが成す角を側方から,側方リーチでは両ASISを結ぶ延長線と床面とが成す角を前方から,被検者から2m離れ,ASISの高さに位置したカメラで撮影し,写真上で測定した. 測定は2回実施し,リーチ距離の最大値を採用した.統計処理は座位と立位におけるリーチ距離,リーチ距離と骨盤傾斜角の関係性についてピアソンの相関係数を用い,座位・立位リーチにおける骨盤傾斜角の差について二元配置分散分析方法を用い,いずれも有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 へルシンキ宣言に基づき,被験者には測定前に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】 1)平均骨盤傾斜角(度)座位→前6.9±5.3 右6.3±6.8 左5.4±5.9立位→前6.8±5.0 右1.5±4.5 左2.9±4.0 2)平均リーチ距離(cm)座位→前9.3±6.3 右7.5±4.5 左8.4±4.8立位→前10.0±6.5 右9.7±5.5 左11.1±6.5 3)リーチ距離における座位と立位の関係側方リーチでは座位と立位のリーチ距離に正相関(右r=0.68左r=0.67)が認められた(p<0.05)が,前方リーチでは認められなかった.4)リーチ距離と骨盤傾斜角の関係座位ではリーチ距離と骨盤傾斜角に正相関(前r=0.55右r=0.66左r=0.76)を認めた(p<0.05)が,立位では認められなかった.5) 骨盤傾斜角における座位と立位の差側方リーチ時の骨盤傾斜角は座位(右側6.3±6.8左側5.4±5.9)に比べ,立位(右側1.5±4.5左側2.9±4.0)の方が有意に小さかった(p<0.05).【考察】 今回の結果より,座位側方リーチでは,リーチ側に骨盤側方傾斜するほど立位リーチ距離が延長するということが示された. 座位での側方リーチ時の骨盤傾斜は,リーチ反対側腹斜筋群が働くことで生じるとされている.また立位リーチ動作では,リーチ側の腹斜筋群と脊柱起立筋の関与が報告されている. 一方,前方リーチでは,座位リーチ動作の骨盤傾斜は立位側方リーチ距離に影響を及ぼしづらいということが示された.座位での骨盤傾斜は,体幹筋が関与していると考えられているが,立位リーチ動作は体幹筋と共に下肢筋が関与しており,下肢の安定性のもと体幹,骨盤を前傾させリーチ動作を行うとされている. 以上のことより,側方リーチでは座位リーチ時の骨盤傾斜と立位リーチ動作は共に体幹筋が関与しているため関係性が認められ,前方リーチでは座位リーチ時の骨盤傾斜と立位リーチ動作の関与する要因が体幹,下肢筋と異なることから関係性が認められなかったものと考える. 高齢者に対して,座位での側方リーチ動作を評価,治療として行うことは有用であり,その際に骨盤傾斜角も考慮すべき因子であると考えられる.本研究より,5ないしは6度のリーチ側への骨盤側方傾斜が得られれば,立位で平均値以上のリーチ距離を得られる可能性が示唆された.治療としてリーチ動作を用いる場合,座位時の骨盤傾斜角の拡大を促すことで,立位リーチ距離の延長に繋がる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 高齢者の方に対し,座位評価で,立位評価結果や動作を推測することを可能としたことは,理学療法研究にとっては有意義であると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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