理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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脊椎圧迫骨折患者の入院日数に影響する因子の検討
田中 智之早間 幸恵贄田 裕太
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p. Ab1088

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抄録
【はじめに、目的】 患者を中心としたチーム医療の中で、理学療法(以下、PT)は患者のADLに直結する大きな役割を担っている。脊椎圧迫骨折は、加齢とともに発生率は上昇し、歩行やADL・QOL低下、疼痛発生の要因となる事は少なくない。臨床では、退院までの支援が円滑にいく場合とそうでない場合があり、しばしば入院日数が長期化する症例を経験する。今回、脊椎圧迫骨折患者の入院日数に影響する要因とPT施行による効果について検討し、PT施行の重要性について知見を得たので報告する。【方法】 2007年1月から2010年12月に脊椎圧迫骨折と診断され、当院に入院し保存療法とPTを施行した患者のカルテ情報の中から無作為に抽出した57例を対象とした。入院日数に影響する要因について、年齢、性別、既往歴の有無、世帯構成、受傷機転、入退院時歩行レベル、入退院時トイレ動作レベル、歩行自立までの日数、退院先とした。既往歴については骨折、脳卒中、リウマチ、心疾患、その他に分類した。世帯構成については独居、2人暮らし、3人以上に分類した。受傷機転については高エネルギー外傷、転倒、エピソードなしに分類した。歩行レベルについては独歩、杖、シルバーカーに分類した。分析方法は、ピアソンの相関係数の検定、t検定を用い有意水準5%未満とした。男女比は男性11例(19.3%)、女性46例(80.7%)であった。平均年齢は76.8±8.6歳(男性77.8歳、女性76.5歳)。世帯構成は独居6人、2人暮らし26人、3人以上25人。平均入院日数23.1±18.5日。平均歩行開始日数4.2±5.0日。平均歩行自立日数9.9±12.1日。入院前歩行レベルは独歩39人、杖15人、シルバーカー3人。退院時歩行レベルは独歩30人、杖22人、シルバーカー5人。認知症者は8人。骨折レベルはTh12が14人、L1が12人、多発骨折が7人、その他24人であった。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院臨床倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】 入院日数と各項目の比較では、年齢、性別、世帯構成、認知症、骨折レベル、受傷機転、入院前歩行レベル、退院時トイレ動作レベルの間に相関はなかった。歩行自立までの日数と入院日数(r=0.80)の間に相関関係が認められた。また、全例が退院時自立歩行可能で自宅退院となった。退院時歩行レベルは79%が入院前と同等の歩行レベルとなった。【考察】 本研究では、年齢や性別、世帯構成、受傷機転が入院日数を伸ばす要因とはなり得ない結果となった。また、全例が自立歩行可能で自宅退院となった。このことから、脊椎圧迫骨折患者の転機は比較的良好である事が分かった。歩行自立までの日数が入院日数に影響していた。一般的に早期離床が入院日数の短縮に繋がるという報告もあり、脊椎圧迫骨折においても同様の事が言える。しかし、一方では年齢や既往歴、世帯構成が入院日数の長期化の要因になるといった報告もある。当院では、入院後1日以内で体幹ギブス固定し、同日から起居動作や起立・歩行練習を開始している。脊椎圧迫骨折患者が疼痛を訴える場面の多くは、起居動作や座位保持、起立動作時である。体幹ギブス固定をする事で疼痛を抑制し、早期離床が可能となり、筋力や歩行レベル低下を防ぎ、結果入院日数の短縮に繋がるものと考える。このことから、早期体幹ギブス固定とPT開始が、体幹筋の筋力低下を予防し、椎体圧潰の進行を防ぐ意味でも重要であると考える。また、既往歴の有無が入院日数を左右するのではなく、併存疾患の重症度がPT施行の阻害因子となり、早期離床や歩行自立の妨げになっているのではないかと考える。また、病棟で歩行が自立していても、退院後の生活に不安があり入院が長期化している例も少なくない。当院では入院直後から医師、看護師、医療相談員(以下、MSW)、ケアマネジャー、理学療法士が連携し協議を重ねている。退院後の生活について提案する事や介護保険サービスの説明を早期から行う事で、患者や家族が退院を受け入れ易い環境を創る事が重要であると考える。このことが、世帯構成の違いが入院日数に影響を及ぼさなかった要因の一つであると考える。今後は、疼痛との関連や他疾患の入院日数に影響する因子についても検証を重ねていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、PT施行と社会資源の利用を含めた退院後の具体的な生活指導を入院後早期から行う事と、医師や看護師、MSW、ケアマネジャーと密接な連携を持つ事で独居者や超高齢者など「一般的に入院を長期化させる要因と言われている状況」の患者であっても入院を長期化させる事が少なくなる。また、DPC導入による定額支払い制度においても大きな減算を生ずる事なく適切な入院治療の提供に繋がっていると言える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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