抄録
【はじめに、目的】 片脚立位動作は立位バランスや歩行の立脚中期の簡便な評価の1つである。一般に片脚立位の前額面における安定性については股関節外転筋群が主要な役割を果たし、足関節においては長・短腓骨筋や後脛骨筋などの協調的な筋活動が求められる。このため、片脚立位動作は腰部骨盤帯・股関節および足関節・足部の機能評価の1つとしても用いられることが多く、片脚立位動作と機能評価に関する研究報告は多数みられる。臨床において片脚立位の際に足圧の著明な内・外側変位を呈するものでは股関節外転筋力が足関節の肢位によって変化することを多く経験するが、股関節外転筋力と足関節肢位に関する報告は認められない。本研究の目的は片脚立位時の足圧分布特性と足関節の肢位が股関節外転筋力に影響を与えるか否かを明らかにすることである。【方法】 対象は男性15名(平均年齢21.2±0.4歳、平均身長173.4±6.3cm、平均体重64.1±7.1kg)である。対象者には神経学的、整形外科的疾患を有するものは含まれていない。解析対象は片脚立位時の足圧分布と股関節外転筋力である。片脚立位時の足圧分布は足圧分布測定装置Win-Pod(Medicapteurs社製)上にて5秒間の片脚立位保持を行うことで測定した。その際、計測肢の足部長軸の中央である第2趾と踵骨中央の結線がセンサープレート中央と一致するようにし、前方を注視した状態で行った。計測結果より足圧内側分布群(9名、以下 内側群)と足圧外側分布群(6名、以下 外側群)に群分けした。サンプリング周波数は10Hzとした。股関節外転筋力の測定はマイクロFet2(HOGGAN Health Industries社製)を用いた。測定肢位は背臥位であり、ベルトを用いて骨盤をベッドに固定し、マイクロFet2を膝関節裂隙直上の大腿外側面に一致させ、柱に固体した。運動課題は股関節内外転および内外旋中間位での股関節外転の等尺性運動である。測定条件は足関節肢位により内反位、外反位、中間位の3条件とし、被験者ごとにランダムに行った。各条件ともに3回測定し、中間位での股関節外転筋力を100%とし、内反位と外反位での股関節外転筋力の割合を算出した。統計処理は内側群および外側群内において内反位と外反位での股関節外転筋力をt検定およびウィルコクソン符号付順位和検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨にのっとり、本研究の趣旨を事前に書面・口頭にて説明し、書面にて同意を得た。【結果】 内側群においては外反位での外転筋力は99.1±7.5%、内反位での外転筋力は71.7±9.0%と外反位での外転筋力が有意に高値を示した。外側群においては外反位での外転筋力は62.6±9.6%、内反位での外転筋力は91.7±10.1と内反位での外転筋力が有意に高値を示した。【考察】 今回の結果より、足関節肢位によって股関節外転筋力が増減すること、片脚立位での足圧分布特性によって股関節外転筋力に与える影響が異なることが明らかとなった。片脚立位動作は多数の筋・関節が参加するため、高い協調性が求められる動作である。このため活動する筋群の組み合わせや活動のタイミングおよび程度が適切に調節される必要がある。片脚立位は足底面内に重心の投影点を保持することが求められるが、足関節周囲筋群の筋活動と荷重の関係に関して、Seibelらは長腓骨筋は足部の外側を引き上げることで荷重を外側から内側へ移動させる機能を有すると述べている。今回の結果では、片脚立位時に足圧分布が内側に優位な群に関しては長腓骨筋の筋活動が高まった状態であり、長・短腓骨筋と股関節外転筋群の組み合わせで前額面での安定性を高めていると考えられる。このため、内側分布群では足関節外反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が高値を示し、内反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が低値を示したものと考える。反対に外側群に関しては後脛骨筋の筋活動がより高まった状態で前額面での安定性を高めていると考えられ、足関節内反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が高値を、外反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が低値を示したものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 片脚立位動作は身体各部位の機能評価のみならず立位バランスおよび歩行などの評価方法として用いられることが多い。臨床において多関節の関係性のなかで動作遂行能力が低下している症例が多く、そのような症例に関しては単関節ではなく、多関節間の協調性を改善するような介入の重要性が今回の研究によって示唆されたと考える。