抄録
【はじめに、目的】 これまでの研究において、心的回転課題における運動イメージが自際の運動能力に反映する可能性があることが示唆されている(Vingerhoets et al.,2002)。またこの心的回転課題は実際の身体の状態を反映することが認められており(de Lange et al. ,2006)、このことは運動イメージが身体図式に依存することを示唆している。安田ら(2009)は身体状況の顕在化が立位姿勢に影響を与えることを報告しているが、これは実運動を伴っており筋活動の変化による改善の可能性が考えられる。そこで今回、心的回転課題を用いた身体状況の顕在化が立位姿勢に影響を及ぼすかを検討するために実施した。【方法】 対象は過去に下肢に整形外科的・神経学的な疾患を有していないもの10名(男性:5名、女性: 5名、年齢21.6±6歳)とし、対象を介入群・対照群にランダムに振り分けた。また2群に年齢、性別の差はないように配慮した。両群ともに介入前後で重心動揺計(ANIMA社製GRAVICODER G-620)を用いて30秒間の開眼・閉眼立位および右足・左足での片脚立位の総軌跡長を3回合計6回測定した(プレテスト)。課題の提示はカウンターバランスを取るためにランダムに実施した。また片脚立位の姿勢は股関節中間位、膝関節屈曲90度の状態とした。介入群に対しては下肢(足部)の心的回転課題を課した。足部の心的回転課題は実験参加者に安静座位を取ってもらい両手とも机の上におくように指示した。机にはPCを置きその画面を見るように指示した。PC画面でランダムに提示した足部の写真が5秒間提示され、それが右か左かを可能な限り早く正確に判断し、反応してもらうことを指示した。施行回数は72施行、5分間であった。対照群へは介入群と同様に安静座位を取ってもらい両手とも机の上におき、机の上のPCの画面を見るように指示した。画像は回転が一切行われない下肢の画像を提示し、右か左かを判断することを72施行、5分間実施した。両群とも介入終了後に再度、重心動揺計での測定を行った。測定には姿勢の改善率として介入前の総軌跡長/介入後の総軌跡長を用い、各項目(開眼両脚立位・閉眼両脚立位・片脚立位)で対応のないt検定を実施した。検定にはSPSS 11.0を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験参加者に対してヘルシンキ宣言に基づき説明と同意を得た上で実験を行った。【結果】 開眼両脚立位・閉眼両足立位においては介入あり・介入なしの群間において有意差は認められなかったが、片足立位においては2群間に有意差が認められた( p <0.05)。【考察】 今回の研究において両脚立位姿勢において有意差は認められなかったが片脚立位においては有意差が認められた。これは両脚立位という立位姿勢保持が健常成人者に対する課題としてそれほど難易度が高くなかったことが考えられる。しかしながら片脚立位姿勢においては介入の有無により有意差が認められた。運動イメージ想起のためには身体状態を認識しなければならないと考えられている。本研究における心的回転課題は運動イメージを操作するものとされ、この課題を通して身体状態の認識を行う必要があり、この認識が立位姿勢を改善することが示唆されたと考えられる。しかしながら、本研究での対象はわずか10名であり、さらに対象を増やす必要があると考えられる。また、心的回転課題を行うことで立位姿勢の改善は得られたものの、運動イメージが想起されたかの確認や、身体状態の認識についての確認はなされていない。今後も目に見えざる運動イメージをどのように測定していくかを考えていくことも必要ではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究では心的回転課題という運動イメージ想起を促す課題によって立位姿勢の安定性が図れることが示唆された。これは立位が不安定な患者に対して心的回転課題を課すことで安全に立位姿勢への介入ができることを示唆しており、理学療法の新しい介入方法となることが期待される。