抄録
【はじめに、目的】 骨髄や脂肪組織中には間葉系幹細胞(MSCs)が存在し、様々な間葉系組織へ分化することが知られている。また、MSCsが分泌する様々なサイトカインや成長因子は損傷治癒促進効果を持つことも報告されており、再生医療の分野では非常に有益な細胞として注目されている。しかし、それらの細胞は量的にごく少なく、骨髄や脂肪組織からMSCsを高純度で分離することは困難であり、細胞採取時のドナーに対する侵襲性やドナーの個体差によって生じる細胞の性質の違い等、問題点も多く挙げられている。さらに、これまでにMSCsの骨格筋分化を報告した例はほとんどない。我々は、ES細胞の脂肪分化誘導過程でMSCsを獲得する方法を確立し、それらの細胞が生体外において骨格筋を含む様々な種類の間葉系細胞へ分化可能であることも確認した。 そこで、ES細胞由来のMSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植し、移植一、二、三週間と経過を追うことでES細胞由来MSCsの生体内における骨格筋分化能を確認した上で、 ES細胞由来のMSCsが骨格筋再生過程にどのように関与するのか、さらに損傷骨格筋の機能回復を促進するかどうか検証することを目的とした。【方法】 損傷部位へ移植する細胞は、EGFPでラベルされたマウスES細胞(G4-2)の脂肪分化誘導過程にCD105を指標として磁気ビーズ(Magnetic Cell Sorting(MACS))法で分離収集され、マウスの前脛骨筋に挫滅損傷を起こした骨格筋損傷モデルマウスの損傷部位へ損傷24時間後に直接注入した。1・2・3週間後凍結切片を作成し、HE染色、EGFP、MHC、M-cadherin、SMI31、α-Bungarotoxin免疫蛍光染色を行い移植細胞の動態と末梢神経と損傷骨格筋の再生過程を観察した。また、片方の前脛骨筋を挫滅損傷させたモデルマウスに細胞を移植した群と細胞移植しない群とに分け、それぞれについてCatWalk(Noldus社)による歩行分析を行い、損傷筋の機能回復を比較した。【倫理的配慮】 本研究は名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 細胞の移植の1週間後、免疫蛍光染色による観察の結果、移植細胞由来であることを示すEGFP陽性の細胞が骨格筋中に観察され、さらに骨格筋へ分化していることが確認された。2週間後・3週間後でも同様に移植細胞の生着が認められ、骨格筋の再生過程に沿ってES細胞由来MSCsの分化し成熟していく過程が確認できた。同様に免疫蛍光染色による観察の結果、骨格筋の損傷領域の末梢神経と神経筋接合部の数が、MSCsを移植することで増加していることが示された。さらにHE染色の結果、MSCsの移植を行った一週間後から中心核を有する再生骨格筋が出現し始め、移植二週間後には損傷骨格筋の修復が観察された。MSCsの移植を行うことで、MSCs移植を行わず損傷骨格筋の治癒過程を観察した非移植群と比較して骨格筋再生過程が一週間短縮されていた。また、歩行分析では、移植を行わない群より行った群の方で機能改善する傾向が明らかとなった。【考察】 ES細胞から作製したMSCsは損傷骨格筋に移植すると、生体内で骨格筋細胞へ分化して筋再生に関与し、さらに損傷骨格筋組織内の末梢神経再生を促進することで損傷骨格筋の運動機能回復を促進することが示唆された。MSCsは様々な種類のサイトカインを分泌しており、それらによる損傷治癒促進効果や神経機能改善効果も報告されている。よって、我々が作製したE-MSCsも生体内におけるサイトカイン分泌によって、末梢神経再生と骨格筋組織再生が促進し、それらが改善された結果、運動機能回復が促進されたのではないかと考えられる。我々が作製したES細胞由来間葉系幹細胞がこれらのサイトカインを分泌しているということが証明されれば、この細胞が再生医療に貢献する可能性はより高まるといえる。【理学療法学研究としての意義】 このES細胞由来間葉系幹細胞による損傷治癒促進効果がさらに詳細に解明されれば、将来骨格筋・骨・軟骨の損傷や疾患に対する非常に優れた治療法となり得る。さらに、それらの移植を行った組織に対する理学療法学的アプローチを導入することで、再生医療分野における、理学療法学が果たす役割は大きい。