抄録
【はじめに、目的】 廃用により骨格筋は量的な減少である萎縮と質的な変化である速筋化を生じる。筋萎縮の回復には長期間のリハビリテーションが必要となるため、筋萎縮の予防が重要である。また、リハビリテーションと併用した栄養管理の重要性も論じられている。栄養管理の役割は、栄養障害の改善や予防であり、生体維持に重要である。骨格筋が萎縮すると筋量の減少、アルブミンの低下、ミトコンドリアの機能不全や減少、免疫能の障害をもたらし、窒素死に至る。これらを予防するために適切な栄養管理が必要となる。そこで栄養補助食品を使用することで骨格筋の廃用性筋萎縮を予防できるかどうかについて検証するために、アルギニンの含有量が多く、プロタミンを主成分とするヌクレオプロテインに着目した。アルギニンは一酸化窒素合成酵素の基質となり、一酸化窒素の産生量を増加させ、骨格筋におけるミトコンドリア新生に関与すると報告されている。そこで本研究では、ヌクレオプロテイン摂取による廃用性筋萎縮の予防、特に質的な変化に対する効果について検証した。【方法】 8週齢の雄性SDラット27匹をコントロール群(CO:n=7)、ヌクレオプロテインのみを投与した群(CN:n=6)、後肢非荷重群(HU:n=7)、後肢非荷重+ヌクレオプロテイン投与群(HN:n=7)の4群に分けた。CN群とHN群には150mg/kgのヌクレオプロテインを1日2回に分けて経口投与した。2週間の実験期間終了後、ペントバルビタールによる深麻酔下で長指伸筋を摘出し、湿重量を測定した後に急速凍結した。得られた筋試料から12μm厚の横断切片を作製し、ミオシンATPase染色(pH4.5)にて筋線維をタイプI線維、タイプIIA線維、タイプIIB線維に分別し、筋線維タイプ別の横断面積と筋線維タイプ構成比率を算出した。得られた結果は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 筋湿重量は、CO群と比較してHU群とHN群では有意に低値を示した。また、HU群とHN群の間には有意差を認めなかった。筋線維のタイプI線維とタイプIIB線維の横断面積は、CO群と比較してHU群とHN群では有意に低値を示したが、HU群とHN群の間には有意差を認めなかった。また、タイプIIA線維の筋横断面積は4群間に差が認められなかった。一方、筋線維タイプの構成比率を観察すると、HU群でタイプI線維の比率がCO群より有意に減少し、速筋化していたのに対して、ヌクレオプロテインを投与したHN群ではCO群と差が認められなかった。また、タイプIIA線維の比率も同様に、HU群では有意に減少したのに対しHN群は減少を示さなかった。これらの結果より、ヌクレオプロテイン摂取で廃用性筋萎縮による筋線維の速筋化を予防できた。【考察】 ヌクレオプロテイン摂取は非荷重に伴う筋萎縮の予防には効果を示さなかったが、速筋化を予防した。後肢非荷重ラットに対するアルギニン投与により遅筋の一酸化窒素が誘導され、筋湿重量、筋線維横断面積の減少を予防し、ミトコンドリア新生を促したとの報告がみられる。本研究においても、ヌクレオプロテインに含まれるアルギニンにより一酸化窒素が誘導された結果、長指伸筋における速筋化を予防した可能性がある。一方、ヌクレオプロテイン摂取により、筋湿重量や筋線維横断面積の減少を予防することはできなかった。アルギニンを500mg/kg投与することで、タンパク質分解系の酵素を減衰し、筋萎縮を予防したという報告もみられることから、本研究におけるヌクレオプロテイン投与量が不足していた可能性も考えられる。今後は、ヌクレオプロテインの効果が、摂取量依存性に異なるかどうかについて検証する必要性があると考えられる。しかし、本研究の結果から少なくとも、ヌクレオプロテインを栄養補助食品として摂取することで、廃用による栄養障害を改善し、質的な変化である速筋化を予防する効果があることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 ヌクレオプロテインを栄養補助食品として摂取することで、廃用性筋萎縮に伴う速筋化を予防することが明らかとなった。長期安静時の栄養管理として栄養補助食品を使用することで、不活動による運動耐容能の低下を予防することができ、その後のリハビリテーションによる早期の機能回復、および日常生活への早期復帰につながる補助として有益であると考えられる。