理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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階段昇降時における底屈制動付き短下肢装具の利点
松村 亮大口 拓也財田 征典西村 由香
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p. Ab1301

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抄録
【はじめに、目的】 現在,脳卒中片麻痺患者における短下肢装具(以下,AFO)は様々な種類が開発されている.私たちは各 AFOの特性を理解し,多様化したAFOの中から患者の機能障害や機能回復の目標に適したものを選択していく必要がある.底屈制動付きAFOやゲートソリューション(以下GS)付きAFOは正常に近い歩容が得られるといわれているが,階段昇降に関する検討は少ない.これらは足関節背屈方向への可動を可能にするため,歩行のみならず,日常的に行われる階段昇降や段差昇降においても利点があると考えられる.その場合,底屈制限と底屈制動の違いや利点を明確にする必要がある.本研究の目的は,階段昇降において底屈制限に対するGS付きAFO装着による底屈制動の利点を明らかにすることとした.【方法】 対象は過去に下肢整形疾患の既往のない健常男性20名(平均年齢21.4才,身長:170.2±5.7cm,転子果長:81.4±4.4cm,下腿長:39.0±3.5cm)とした.対象者は,左足部を装具なし,底屈制限(背屈フリー・底屈0°で固定),底屈制動(背屈フリー・底屈0°から制動)の3条件下で一足一段の階段昇降を行った.装具はGS+ダブルクレンザック継手付きAFO(Pacific Supply社製)を使用した.階段昇降時の各相における股関節,膝関節,足関節の角度を計測した.各関節の動きは階段昇降を側方からビデオ撮影した後,各相の静止画上にて標点を結ぶ各角度を画像ソフトImage Jを用いて計測した.対象者に貼付した標点は左側の腸骨稜,大転子,膝関節裂隙,外果,第五中足骨頭,第五中足骨底とした.対象者は,標点のずれをできる限り排除するために上半身は裸とし,下肢はスパッツを着用した.階段昇降における底屈制動の利点を検討するため,足関節底屈可動域を必要とする昇段足先離地,降段遊脚終期,足先接地,足底接地の下肢関節角度を3条件間で比較した.統計処理はt検定及び繰り返しのない二元配置分散分析・Turkey-Kramer検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には研究の趣旨,方法,リスクを説明し書面にて研究協力の同意を得た.【結果】 各相における下肢関節角度は,装具なし,底屈制動,底屈制限の条件順に,昇段・足先離地では股関節:12.4度,7.8度,11.5度,膝関節:29.4度,24.1度,27.8度,足関節:-19.4度,-0.9度,-8.5度であった.降段・遊脚終期は,同順に股関節12.7度,18.6度,17.4度,膝関節:12.0度,23.5度,22.2度,足関節:-31.4度,1.3度,-7.1度であった.降段・足先接地は,底屈制限時では認められず,装具なし,底屈制動の順に股関節:9.1度,10.9度,膝関節:7.6度,15.1度,足関節:-29.0度,-13.3度であった.降段・足底接地は,同順に股関節:7.9度,10.4度,10.3,膝関節:15.9度,17.4度,17.5度,足関節:4.2度,1.8度,2.0度であった.足部3条件間における各関節の比較結果,昇段・足先離地では,股関節,膝関節,足関節ともに装具なしと底屈制限(p<0.05),装具なしと底屈制動では足関節(p<0.05)に,底屈制限と底屈制動では股関節,膝関節,足関節ともに有意差があった.降段・遊脚終期では,装具なしと底屈制限および底屈制動において股,膝,足関節すべてに有意差があった(p<0.05).また,足関節は底屈制限と底屈制動に有意差があった(p<0.05).降段・足先接地は,装具なしと底屈制動において各関節ともに有意差があった(p<0.05).足底接地は,装具なしと底屈制限および底屈制動間に股関節と足関節の角度の有意差があった(p<0.05)が,膝関節には違いはなく,制限と制動間にも有意差はみられなかった.【考察】 昇段の足先離地において,底屈制限では足部の蹴り上げが行えないため,代償的に股・膝関節を伸展させて昇段するための推進力を生み出したことにより,昇段を可能にしていたと考えられた.GSの構造上,底屈制動はやや底屈を制限されるものの底屈制限では各関節角度に有意差があり,底屈制動付きの方が通常に近い蹴りあげを可能にした利点があった.降段の遊脚終期と足底接地では,底屈制限と底屈制動における股関節と膝関節は足関節の動きを代償する歩容で,両者とも下肢関節角度の大きな違いは認められなかった.しかし,足先接地では,底屈制動では,制限ではみられなかった足先接地を可能にしていた利点があった.但し,底屈制動機能付きAFOによる足先接地は健常者では可能であったが,脳卒中後の機能障害の状態によっては困難である場合もあると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 継ぎ手に可動性を持たせたGS付きAFOは,一足一段の階段昇降を可能にし,昇段時の蹴り上げ動作を可能とする利点があることを明らかにした.本研究結果は,脳卒中患者の階段昇降における歩容改善や運動機能の再学習方法の一助となった.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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