理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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障害物の高さの違いによる跨ぎ動作戦略の相違
安川 洵今野 太陽真壁 寿
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キーワード: 障害物, 跨ぎ動作, 重心移動
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p. Ab1302

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抄録
【はじめに、目的】 Gibsonniによると転倒は,「自分の意志からではなく,地面またはより低い場所に,膝や手などが接触すること」と定義されている.またその転倒の原因の約20%が障害物を跨ぐ際のつまずきであると,真野らが述べている.相馬らによるとつまずきの要因は,外的要因と内的要因とに分類されている.外的要因とは住環境要などの環境要因であり,内的要因とは平地歩行中の足尖部の挙上低下などの身体要因をいう.そこで今回は,跨ぎ動作時のつまずきに関わる身体要因に着目し,障害物の高さの違いによる跨ぎ動作の違いを検討することである.【方法】 神経学的,整形外科的疾患を有さない健常成人男子学生10名(平均年齢23.6歳)を対象とした.測定課題は,平地歩行3回と高さの違う障害物の跨ぎ動作を3試行,各3回ずつ実施した.全施行はランダムに実施し,障害物の高さは棘果長の10・20・30%に規定した. 跨ぎ動作中に初めに跨ぐ脚を先行肢,後から跨ぐ脚を後行肢とした.先行肢及び後行肢の母趾が,障害物直上に来た時点において,質量中心(Center of Mass:COM)と足圧中心(Center of Pressure:COP)の成す角(Inclination Angle:IA),その角速度(Angular Velocity;AV),母趾-障害物間距離(Toe-obstacle clearance:TOC)を計測した.また同期して遊脚肢の下肢関節角度,支持脚中殿筋(Glu Med)・前脛骨筋(TA)・腓腹筋(GAS)の筋活動を測定した.以上の項目を,三次元動作解析装置(plug-in-gait modelを使用.100Hz),床反力計(1000Hz),筋電計(1000Hz)を用いて測定データを収集した.測定データはShapiro-Wilk検定にて正規性を確認し,正規分布データでは反復測定分散分析後に多重比較検定を実施した.また非正規分布データにはFriedman検定を実施後に多重比較検定を実施した.有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者に対して,研究の趣旨と安全性を十分に説明し,同意を得た上で行った.【結果】 先行肢でIAは高さの増加に伴い減少し,10%と比較して20%および30%間で有意差がみられた.AVでは有意差は無かったが,高さの増加に伴い減少傾向が見られた.後行肢ではIAは高さの増加に伴い,有意な増加が見られた.また,10%と比較して20%および30%で有意差がみられた.AVでは高さの増加に伴い,減少が見られ,10%に比較して20%および30%で有意差がみられた.遊脚肢関節角度では先行肢と後行肢でともに,高さの増加に伴い股関節および膝関節屈曲,足関節背屈角度が有意に増加した.先行肢および後行肢の跨ぎ同時時の支持脚筋活動は,平地歩行時と比較して全筋で統計学的有意差はなかった。先行肢および後行肢の跨ぎ動作時のTOCは,障害物の高さの増加に伴って増加した.先行肢のTOCは10%と30%間で,後行肢のTOCは10%と比較して20%および30%間で有意差が見られた.【考察】 先行肢の跨ぎでは,障害物の高さが増すにつれ,下肢関節の屈曲を強め,バランス維持のためにCOMの前方移動を極力抑え、COMをCOPの直上に近づける戦略をとっていた.一方,後行肢の跨ぎでは,下肢関節屈曲を緩徐に増大させることで,COMを前方移動させ,IAの過大な前方拡大を抑制する戦略をとっていた.この戦略は後行肢の跨ぎ動作時のAVの減少にも繋がっていた.先行肢と後行肢とでTOCの増加に違いが見られたことは,視覚的な情報が関係している可能性が考えられた.後行肢では障害物を視認することが出来ないため,過剰なTOCを生み出すことで,つまずきへの危険性をあらかじめ回避していたと考えられた.今回の研究により,先行肢および後行肢の跨ぎ動作において,障害物の高さの増加に合わせて,下肢関節屈曲と重心移動において跨ぎ動作の戦略の違いが存在することが明らかになった.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究から若年健康成人において、先行肢および後行肢の跨ぎ動作において戦略の違いが存在することが明らかになった。今後,対象を高齢者に広げ,このような跨ぎ動作の戦略の違いが存在するかを明らかにする必要がある。また、矢状面と前額面のどちらが,跨ぎ動作の転倒リスクの判断について有益であるかも検討する必要がある。以上の点が明らかになれば,日常生活での環境設定や転倒の危険が少ない動作方法の提案につなげることができると考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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