理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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収縮-弛緩タイプのストレッチング効果
武村 政徳石田 哲士藤竹 俊輔秋山 隆一出原 千寛辻田 大辻田 純三
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p. Ab1341

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抄録
【はじめに、目的】 “収縮-弛緩”タイプのストレッチは、筋収縮による腱受容器刺激がIb抑制を促通し収縮後の弛緩が得られると説明されることが多い。しかしながら、反応時間などから最大収縮後の弛緩は腱受容器/Ib求心性線維の関与のみとは考えにくいうえ、Ib抑制の関与を想起させる最大の要因であった「折りたたみナイフ現象」は、既にIb求心性線維の関与なしで生じることが報告され、またIb求心性線維の伸筋群に対する興奮性制御の存在も明らかになり、“収縮-弛緩”タイプのストレッチ効果をIb抑制だけで説明することは困難である。ストレッチの効果に関しては、神経生理学的効果にとどまらず、結合組織の構造的変化にも着目されている。そこで本研究は、収縮-弛緩タイプのストレッチ効果を、超音波画像診断装置で捉えた構造的変化とH反射を用いた神経生理学的変化の両面で評価可能か検討することを目的とした。【方法】 健康な男性5名(18~20歳)を対象とし、次の2種類の測定を行った。最初に、足関節背屈に対する収縮-弛緩タイプのストレッチを多用途筋機能評価運動装置(Biodex system 3, Biodex Medical Systems製)のpassive modeを用いて模擬的に行い、腓腹筋の構造的変化を筋線維束の滑走距離として超音波画像診断装置(SSD900, ALOKA製)を用いて測定した。Passive modeは、足底屈20度から他動的背屈運動として角速度5度/秒、上限トルク20Nmに設定して行った。足関節の受動張力が20Nmを超えると背屈運動が停止するので、この停止を確認後対象者に最大努力で底屈運動を行わせ(下腿三頭筋の等尺性随意収縮)、その後口頭でリラクゼーションを指示した。この収縮-弛緩で受動張力の低下が見られるため、自動的にpassive modeの背屈運動が再開し“発展的”ストレッチが行われ、再び受動張力が20Nmを超えるまで下腿三頭筋が伸張される。受動張力が20Nmを超えpassive modeの背屈運動が停止した後は、上記手順を“発展的”ストレッチが見られなくなるまで繰り返した。腓腹筋筋線維束の滑走距離は、線維束が中間腱に付着するところを基準に、腓腹筋の伸展時、および収縮時の移動距離を計測した。H反射の測定は、上記測定では足関節の角度変化に伴い連続したH波の比較ができにくくなるため、足関節底背屈0度に固定した条件で行った。測定条件は(1)安静(安静: 10秒)、(2)足底屈・最大随意等尺性収縮(主動筋収縮: 5秒)、(3)安静(収縮後弛緩: 5秒)、(4)足背屈・最大随意等尺性収縮(拮抗筋収縮: 5秒)とし、事前に確認したM波閾値の1.2倍の刺激強度で膝窩部脛骨神経に誘発筋電計(ニューロパックΣ, 日本光電製)を用いて電気刺激し(頻度1Hz)、腓腹筋M波・H波を導出し、H/M比を計測した。H波、H/M比はKruskal-wallis検定を用いて比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には実験に先立ち、本研究の目的、方法および実験参加により起こりうるリスクについて口頭で十分な説明を行い、研究参加の同意を得た。【結果】 Passive modeを利用した模擬収縮-弛緩ストレッチにより、最初の制限(停止)角度から平均7.8±5.6度の背屈角度の改善が全員に見られた(収縮弛緩の繰り返しは2.6±0.8回)。このとき腓腹筋筋線維束の最終的な滑走距離は停止腱方向に平均31±0.8mmであったが、足底屈の等尺性随意収縮時には平均10±5.7mmの起始腱方向への滑走が全員に確認された。また、H波(μV)は安静1393±706、主動筋収縮3227±2375、収縮後弛緩937±313、拮抗筋収縮470±396であった。また、H/M比は、それぞれ11.4±11.1、26.4±22.2、5.2±5.7、0.6±0.6であった(有意差なし)。【考察】 対象数が少なく統計的に有意な変化として示すことができなかったが、最大収縮後弛緩で腓腹筋脊髄運動ニューロンの興奮性が低下すること、拮抗筋収縮に対する相反抑制と比較してその効果は小さいことが示唆された。一方、等尺性収縮により筋-腱ユニットの結合組織で伸張が生じていることは全員に確認ができた。収縮-弛緩タイプのストレッチでは、神経-筋の抑制効果は必ずしも大きいとは言えず、結合組織の伸張など構造的変化についての効果が重要であることを示すことができた。【理学療法学研究としての意義】 関節可動閾の改善や筋の伸張など運動療法で日常的に行われるストレッチであるが、その効果・作用機序について再確認することでより効果的な利用が可能となると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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