理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ヒト関節拘縮における関節包の組織学的変化
─複数関節の観察による検証─
井上 隆之橋本 龍樹松本 暁洋堀江 哲史安井 幸彦大谷 浩
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キーワード: ヒト, 関節拘縮, 関節包
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p. Ab1345

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抄録

【目的】 関節拘縮には関節構成体内外の要素が複雑に関与している。関節包は滑膜関節の連結部全体を覆う線維性の被膜であり,拘縮モデルを用いた動物実験において,関節包および滑膜の組織学的変化による拘縮への影響が示唆されている。拘縮の評価・治療においては,関節包の病態変化の把握は重要であるが,ヒト関節拘縮における関節包の組織学変化についての情報は少なく,実際のヒト関節拘縮の病態については詳細に報告されていない。我々は先行研究において,膝屈曲拘縮を呈したヒト解剖学実習体を用いた組織学的観察により,関節包の弾性線維の減少が関節拘縮要因の一つであることを示唆した。本研究では,肩関節および膝関節が拘縮した解剖学実習体の関節包を組織学的に観察することにより,関節拘縮における関節包の組織学的変化による影響をさらに詳しく検討することを目的とした。【方法】 四肢に重度拘縮を呈した解剖学実習体1例(以下重度拘縮例)の右肩関節(肩甲骨挙上35°,伸展20°,肩関節屈曲・伸展0°,外転20°,内旋80°)および膝関節(右145°:左155°)の関節包を組織学的に観察した。また膝関節に屈曲拘縮を呈した解剖学実習体2例((1)右70°:左90°,(2)右110°:左90°;以下膝屈曲群)を用い,屈曲角度の違いによる関節包への影響を重度拘縮例の膝関節と併せて観察した。肩甲上腕関節・結節間滑液鞘・肩鎖関節および膝関節の関節包を標本として切り出し,再固定して凍結切片を作製した。連続切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色およびエラスチカ染色による組織学的観察を行った。また,現病・既往に肩および膝の関節疾患等のないご遺体3例を対照群として同様に観察した。【説明と同意】 本研究は,島根大学医の倫理委員会の承認(承認番号第420号)を受けた。使用したご遺体は,ご遺族に同意をいただいた後に採材した。【結果】 重度拘縮例の肩関節において,対照群と比べて特に小円筋に隣接する関節包では,滑膜細胞の減少および隣接する密な結合組織が観察された。肩甲下筋の関節包においては滑膜細胞が均等に減少して分布していた。結節間滑液鞘の滑液包は狭小し,滑膜細胞が顕著に減少していた。また肩鎖関節包では,弾性線維の減少や密な結合組織が観察され,滑膜細胞が疎に分布していた。さらに肩鎖関節包の骨付着部では,軟骨細胞層の増殖が観察された。重度拘縮例の膝関節関節包では,滑膜細胞の減少が観察され,特に内側関節包において減少が顕著であった。膝屈曲群の膝関節においては,対照群と比べると重度拘縮例ほどではないが滑膜細胞は減少していた。エラスチカ染色による観察では,重度拘縮例で肩甲上腕関節および肩鎖関節の関節包の弾性線維が顕著に減少していた。肩甲上腕関節包の弾性線維は,特に小円筋に隣接する部位で顕著に減少していた。重度拘縮例の膝関節関節包では,弾性線維が顕著に減少しており,特に内側関節包において弾性線維が減少していた。膝屈曲群においても程度は様々であるが,弾性線維は対照群に比べると減少傾向にあった。【考察】 重度拘縮例の組織学的観察結果より,肩甲上腕関節および肩鎖関節の関節包の弾性線維の顕著な減少や滑膜細胞の減少が,重度拘縮例の肩関節拘縮要因として示唆される。また結節間滑液鞘における滑液包の狭小および滑膜細胞の減少は不活動の影響による不可逆的変化と考えられる。膝関節の関節包においても,重度拘縮例で弾性線維の顕著な減少や滑膜細胞の減少が観察され,重度拘縮例の膝関節拘縮要因として示唆される。また,膝屈曲群においては,重度拘縮例ほどではないが滑膜細胞や弾性線維が対照群と比べ減少傾向にあったことから,これらの組織学的変化は膝屈曲群の拘縮要因の1つとして考えられる。今回の解剖学実習体を用いて観察された弾性線維および滑膜細胞の減少は,拘縮動物モデルを用いた関節包の組織学的変化と近似している。したがって,ヒト関節拘縮の要因として関節包の組織学的変化が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,動物実験のような経時的変化の観察は行えないが,今回の解剖学実習体を用いて観察された組織学的変化は,拘縮動物モデルを用いた関節包の組織学的変化と大きな差異はなく,実際のヒトにおける拘縮要因の一つと考えられる。この度の関節包の組織学的観察結果から弾性線維や滑膜細胞の減少が拘縮の要因として示唆され,それは重度拘縮例ほど顕著であり,関節拘縮に対する治療においては,これらの組織学的変化を念頭に入れ,関節破壊に繋がらないよう安全性に配慮することが必要である。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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