抄録
【目的】 人工膝関節全置換術(TKA)後または単顆置換術(UKA)後患者の身体機能を評価する尺度として,Western Ontario and McMaster University Osteoarthritis Index (WOMAC)に代表される疾患特異的尺度が開発されている.しかし,術後一定期間を経過した患者や若年で身体活動量の高い患者においては,WOMACでは十分に評価できないことが報告されている.Simonら(2010)は,若年で身体活動量の高い術後患者に対する疾患特異的尺度である,High-Activity Arthroplasty Score(HAAS)を開発し,豪州における高い妥当性を報告した.今回,HAASを日本語に翻訳して日本語版HAAS(JHAAS)を作成し,本邦での再現性および妥当性を調査した. 【方法】 まず,HAASを日本語に翻訳し,理学療法士および医師により,本邦において妥当な内容に修正して質問票を作成した.作成した質問票を英語に精通した者が再度英語に翻訳し,パイロット版JHAASとして原作者の了承を得た.HAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる自記式の質問票である.合計得点は0-18点を取り,点数が高いほど身体活動量が高いことを示す.次いで,当院で初回TKAまたは初回UKAを受けた患者15名を対象として,予備調査を行った.質問票に回答するにあたり,文章表現,回答の負担についてコメントを記入させた.加えて,回答にかかる時間を測定した.JHAASの再現性について,2週間以内に同一患者15名に再調査を行った.各ドメインの重み付けカッパ係数,合計得点の信頼性係数を算出し,Bland-Altman plotを用いて誤差を視覚的に判断した.JHAASの妥当性について,55歳から80歳までの術後患者87名を対象として,20011年9月から10月までの期間において横断的に調査を行った.重篤な合併症(心疾患,中枢神経疾患)を有する者,膝関節以外の骨,関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者は除外した.外的基準として,1)等尺性膝伸展筋トルク(膝伸展筋トルク),2)日本語版WOMAC身体機能項目,3)日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(日本語版PASE)を用いた.調査方法は,外来受診時に膝伸展筋トルク,日本語版WOMACを測定した後,JHAASおよび日本語版PASEを手渡し,2週間以内に返送させた.膝伸展筋トルクはハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μTas-F1)を用いて測定した.データ解析は項目分析を行い,ヒストグラムを描画してデータの分布を確認した.さらに膝伸展筋トルク,日本語版WOMACおよび日本語版PASEとJHAASとの相関係数を算出した.【説明と同意】 対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 質問票を60名から回収した(回収率70%).対象者の基本属性は,男性6名,女性54名,年齢[平均値±標準偏差,(範囲)]70.7±6.4(55-80)歳,BMI 26.0±3.9(18.8-35.6)kg/m2,TKA 31名,UKA 29名,片側25名,両側35名であった.術後経過月数は2-67ヶ月であった.JHAASの再現性について,各ドメインの重み付けカッパ係数は0.611-0.706であり,合計得点の信頼性係数は0.825であった.Bland-Altman plotによる誤差は概ね±2標準偏差以内であった.JHAASの無回答者は1名であり,回答に要する時間は1-8分であった.天井効果または床効果を認めず,ヒストグラムから正規分布を確認できた.日本語版WOMACでは天井効果を認めた.JHAASと膝伸展筋トルク(r=0.445),日本語版WOMAC(r=0.449),および日本語版PASE(r=0.410)において相関を認めた.【考察】 本調査において,人工膝関節置換術後患者における身体活動量の評価について,JHAASの再現性および妥当性が確認された.加えて,JHAASは短時間で実施できること,無回答者が少ないこと,また日本語版WOMACでは十分に評価できなかった対象にも適用できることから,実用性が高い疾患特異的尺度であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 身体活動量の高い患者に対する詳細な評価は,適切な問題点の抽出,治療プログラム立案,および治療効果の判定において不可欠である.そのため,再現性,妥当性を備えた,実用性の高い疾患特異的尺度を作成する意義は深いと考えられる.