理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
腰痛患者の腹部筋群の筋厚と筋力に関する検討
高尾 篤福林 秀幸竹内 真吉川 義之松田 一浩加納 和佳杉元 雅晴中山 潤一
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キーワード: 腰痛, 筋厚, 筋力
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p. Ac0395

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抄録

【はじめに、目的】 腹筋筋力の低下は,腰痛の病因の一つと考えられており,筋力検査は重要とされている。筋力測定は,等速性筋力計やハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)などを用いられて測定されている。筋力の発揮を伴わずに筋力を評価する手段に筋量の測定がある。先行研究より,筋量を表す筋横断面積は筋力と相関が高く,筋力の推定には有用である。筋横断面の画像は,CTやMRIなどの断層撮影で計測できる。しかし,時間と経費がかかることで,筋横断面積の画像検査として簡便に使用されにくい。近年,超音波診断装置で筋厚を計測することができ,筋横断面積や筋力とも相関関係が高いと報告されているが,腹部筋群の筋力と各腹部筋群の筋厚との関係を示している報告は少ない。そこで今回,腰痛患者に対して,HHDを使用して腹部筋群の筋力を測定し,超音波診断装置で得られた各腹部筋群の筋厚との相関を検討した。さらに,腰痛群と非腰痛群に分け,腹部筋群の筋力と各腹部筋群の筋厚を比較検討した。対象は,腰痛外来患者10名(男5名,女5名),健常人10名(男5名,女5名)とした(年齢32.3±12.3歳)。なお,腰痛は,L1棘突起と臀溝の間に存在する疼痛とし,腫瘍,脊椎骨折,感染症,神経学的脱落所見を伴うものは,対象から除外した。【方法】 対象者に対して,理学療法士が,腹部筋群の筋力と各腹部筋群(腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)の筋厚を両側3回ずつ計測し平均値を算出した。腹部筋群の筋力測定では,HHD(パワートラックIIMMTコマンダー:日本メディックス製)を用いた。被検者は椅子に座り,足底は床から離し,上肢の位置は体側とした。そして,上前腸骨棘の前方と背もたれ,大腿遠位部と椅子の座面をベルトで固定した。HHDのアタッチメントを当てる位置は,胸骨体の中央とした。約5秒間の最高努力により体幹屈曲運動を実施した。1回予行練習を行い,その後3回実施した。なお,測定の間隔は30秒以上の休憩を入れた。代表値には,3回の平均値を用いた。超音波診断装置(LOGQ3:GE横河メディカルシステム製)での測定は,Bモードにて,リニアプローブ8MHz を用いて測定した。測定前に背臥位にて臍から2cm横に左右マーキングをし,臍と上前腸骨棘との交点から外後方に左右マーキングした。その後,プローブを置き,安静吸気時の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の静止画像により記録した。筋厚の計測方法は,静止画像から各筋膜による境界線の内側面を基準に筋厚を1mm単位で測定した。統計学的検討は,腹部筋群の筋力と各腹部筋群の筋厚との関係をPearsonの相関係数を用いた。腰痛群と非腰痛群の筋力と各筋厚との差の検定は,t-検定を行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被検者には,本研究の主旨と方法について十分に説明し,承諾を得て実施した。【結果】 腹部筋群の筋力と,各腹部筋群の筋厚との相関がみられた(右腹直筋,r=.63,左腹直筋,r=.59,右外腹斜筋r=.63,左外腹斜筋,r=.66,右内腹斜筋,r=.66,左内腹斜筋,r=.76,右腹横筋r=.70,左腹横筋,r=.71)。腰痛群と非腰痛群では男女筋厚(片側の外腹斜筋と両側の腹横筋)に有意差が認められた(p<0.05)。【考察】 HHDでの腹部筋群の筋力検査と,各腹部筋群の筋厚に相関関係があった。先行研究から,膝関節伸展筋力と大腿四頭筋の筋厚に相関関係があるという報告から,同様に腹部筋群の筋力も腹部筋群の筋厚により推測できると考えられた。腰痛群は,非腰痛群と比較し,筋厚(腹横筋と外腹斜筋)が低値であった。これは,腰痛患者においては,腹横筋の筋厚の減少が認められたとした先行研究に矛盾しない結果であった。また,深部筋の筋活動低下および遅延でおこる機能障害は,腰痛が発生しやすいとされており,今回の結果からも深部腹部筋群の筋厚の測定が重要であることが示された。今後,対象者をさらに増やし,腰痛患者に対する介入効果の研究を行い,効果判定の可能性を検討する。【理学療法学研究としての意義】 腰痛群と非腰痛群では腹部筋群の筋力において有意な差はみられなかった。しかし,腹横筋や外腹斜筋などの深部腹部筋群の筋厚には有意差がみられた。腹部筋群の筋力検査よりも,超音波診断装置で深部腹部筋群の筋厚を計測することが,腰痛患者の検査として有用であることが示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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