理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
筋力増強運動による萎縮筋の筋線維核数増加の時期や量
伊東 佑太藤田 佳菜子縣 信秀宮津 真寿美平野 孝行河上 敬介
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p. Ac0396

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抄録

【はじめに、目的】 筋萎縮からの回復を促進するために、筋力増強運動が用いられるが、そのメカニズムには不明な点が多い。これまでに我々は、尾部懸垂法による筋萎縮モデルマウスに対してオペラント学習法による筋力増強運動を施し、筋線維横断面積の回復が促進することを明らかにした。更に、この筋線維横断面積の変化に先立ち運動開始4日目の時点で、筋線維内に存在する核の数(筋線維核数)が正常値の1.6倍まで増加していることを明らかにした(第46回理学療法学術大会)。一般に、筋線維核数が増加するには、筋衛星細胞から増殖、分化した筋芽細胞の既存筋線維への融合が必要であるといわれる。しかし、筋萎縮からの回復促進にこれらの細胞の融合が関与しているかどうか、また、関与しているならば、その時期や量は不明である。そこで、本研究では、筋力増強運動による筋萎縮からの回復過程において、筋線維内の新生した核の有無やその出現時期を調べた。【方法】 対象は10週令のICR雄性マウスとした(n=18)。まず、7日間のオペラント学習法により自発的な立ち上がり運動を学習させた。そして、尾部懸垂を14日間施すことにより、後肢筋を萎縮させた。その後、1セット25回、1日2セットの立ち上がり運動による筋力増強運動を開始した。この立ち上がり運動は、疲労により連続30回以上は行えず、一般的な水泳やトレッドミル走等の持久運動より高強度な運動である。本運動を行うと、7日間で筋線維横断面積が元の大きさまで回復し、回復促進効果があることを確認している。尾部懸垂から解放した直後(d0群)、1日後(d1群)、2日後(d2群)に各々5-ethynyl-2’-deoxyuridine(EdU)50 µl /BWgを腹腔内投与し、投与から48時間後にヒラメ筋を剖出した。剖出したヒラメ筋の凍結横断切片に対して、蛍光azideを用いてEdUのclick-iT法を行った。この方法は、EdU投与からの48時間に新生した核を検出することができる。EdUの染色に加え、抗Dystrophin抗体(筋細胞膜の位置を同定)及びDAPI(すべての核の標識)による染色も行った。そして、横断切片中すべての筋線維核数を測定し、筋線維1本あたりの筋線維核数を算出した。また、その筋線維核の中でEdU陽性である核の数を測定し、筋線維核中のEdU陽性核の割合を算出した。群間の比較は、一元配置分散分析及びBonferroni法を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は、所属施設の動物実験委員会に諮り、承認を得て行った。【結果】 筋線維1本あたりの筋線維核数は、筋力増強運動の期間が2日間のd0群で0.57±0.08 /本、3日間のd1群で0.78±0.08 /本、4日間のd2群で1.09±0.08 /本であり、d0群、d1群に比べ、d2群で有意に多かった。これらの筋線維核の中でEdU陽性であった核数は、d0群で0.012±0.016 /本、d1群で0.014±0.007 /本、d2群で0.113±0.017 /本であり、d0群、d1群に比べ、d2群で有意に多かった。このEdU陽性核のすべての筋線維核数に対する割合は、d0群で1.92 %、d1群で1.77 %と少なかったのに対して、d2群では10.32 %と多かった。【考察】 これまで新生した核の同定に用いてきた5-bromo-2’-deoxyuridine (BrdU)は、免疫組織染色との多重染色が難しく、検出した核の局在を明確に捉えることができなかった。本研究はこの点が改善されたEdUのclick-iT法を用いることで、検出した核の局在が筋細胞膜の内側か外側かを明瞭に区分できた。その結果、筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進過程において、筋線維内に新生した核を検出できた。最終分化した筋線維核はその後分裂しないといわれる(Stockdale, 1971)。従って、観察されたEdU陽性の筋線維核は、主に筋線維外で筋前駆細胞から増殖、分化した細胞が、既存の筋線維に融合したものであると考えられる。このEdU陽性の筋線維核数は、運動開始後2日目までに比べて、2日目以降の48時間で10倍多かった。つまりこの2日目から4日目の短い期間に、筋前駆細胞の増殖と既存筋線維への急激な融合が起こることで、筋線維核数が大幅に増加すると考えられる。なおこの時期では、筋線維横断面積が元の大きさまで回復していないことを確認している。一般に、筋線維核1つが転写翻訳を支配する筋線維の領域は一定であるといわれるが(Gregory, 2001)、本研究では筋線維のサイズが増加していないのに関わらず、筋線維核数が増加した。これは、筋線維横断面積を回復させる準備として、その転写翻訳を司る新たな筋線維核が前もって動員される機構が働いているのではないかと考える。今後は、これらのメカニズムの解明へと発展させたい。【理学療法学研究としての意義】 萎縮筋の筋線維核が運動により増加するメカニズムが解明できれば、萎縮筋に対する適切な運動方法を解明するための、精度の高い検証が可能となる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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