抄録
【目的】 ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)はCYBERDYNE株式会社により開発された装着型の動作支援機器である。動作中の筋活動電位から,股関節および膝関節のトルクをコンピュータ制御し,人の動きをアシストするものである。今回,歩行困難なHTLV-1 associated myelopathy(以下HAM)患者に対して,三次元動作解析装置(VICON MX)を用いてHALの支援効果を検討する。【対象と方法】 対象は痙性対麻痺歩行を呈する女性HAM患者3名。症例Aは62歳,Osame’s Motor Disability Score(以下OMDS):6。症例Bは70歳,OMDS:6。症例A,Bとも主な移動手段は杖・歩行器歩行もしくはW/C。症例Cは63歳,OMDS:4。主な移動手段は歩行(杖不要)。対象者は40分間,T字杖2本を使用し,HALを装着して歩行練習を受けた。三次元動作解析装置を用いて,歩行中の計測空間に対する骨盤の前後傾角度,および左右の矢状面の股関節,膝関節における関節角度を計測し,更に歩幅,ケイデンス,歩行速度において,各症例ずつHALの歩行練習前後で比較した。尚,歩行手段は症例A,Bでは2本のT字杖を使用し,症例Cは杖不要で,いずれも快適歩行で8m歩行路の中間で歩行周期を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には,研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。【結果】 症例A:HALの歩行練習後では歩幅(m)(右0.34→0.39,左0.32→0.40),ケイデンス(steps/min)(右49.66→71.29,左51.8→71.64),歩行速度(m/sec)(右0.27→0.46,左0.29→0.47)のいずれも改善を示した。各関節角度において,骨盤最大前傾角度(18.83°→15.92°)は減少し、最大後傾角度(-11.10°→-9.37°)は増加した。股関節において右は最大屈曲角度(39.59°→42.52°),最大伸展角度(-11.97°→-9.69°)とも増加し,また左では最大屈曲角度(42.56°→40.89°)は減少し,最大伸展角度(-11.97°→-3.85°)は増加した。膝関節において右の最大屈曲角度(47.46°→44.72°)は減少し,最大伸展角度(-16.76°→-15.01°)は増加し,また左では最大屈曲角度(39.62°→39.86°)は増加し,最大伸展角度(-10.12°→-11.59°)は減少した。症例B:HALの歩行練習後ではケイデンス(steps/min)は低下(右69.23→64.29,左68.57→64.29)し,歩幅(m)(右0.33→0.34,左0.24→0.32),歩行速度(m/sec)(右0.33→0.36,左0.32→0.36)は改善を示した。各関節角度において,骨盤最大前傾角度(22.86°→9.10°)は減少し、最大後傾角度(-14.88°→0.62°)は増加した。股関節において右の最大屈曲角度(40.77°→24.51°)は減少し,最大伸展角度(-12.19°→6.10°)は増加し,また左では最大屈曲角度(41.96°→28.75°)は減少し,最大伸展角度(-10.89°→5.69°)は増加した。膝関節において右の最大屈曲角度(32.68°→34.34°),最大伸展角度(-12.40°→-9.00°)とも増加し,また左でも最大屈曲角度(39.02°→43.54°),最大伸展角度(-16.72°→-10.55°)は増加した。症例C:HALの歩行練習後では歩幅(m)(右0.41→0.43,左0.43→0.48),ケイデンス(steps/min)(右88.34→93.51,左90.57→92.31),歩行速度(m/sec)(右0.65→0.73,左0.62→0.71)のいずれも改善を示した。各関節角度において,骨盤最大前傾角度(11.95°→18.07°)は増加し、最大後傾角度(1.47°→-4.41°)は減少した。股関節において右の最大屈曲角度(23.98°→30.14°)は増加し,最大伸展角度(15.94°→9.90°)は減少し,また左においても最大屈曲角度(30.19°→35.16°)は増加し,最大伸展角度(7.55°→5.92°)は減少した。膝関節において右の最大屈曲角度(52.94°→52.37°),最大伸展角度(-2.10°→-2.44°)とも減少し,また左は最大屈曲角度(45.19°→45.90°),最大伸展角度(-7.13°→-7.06°)とも増加した。【考察】 我々は以前,2007年,第13回「国際ひとレトロウイルスHTLV会議」において,HAM患者の歩行の特徴の一つに不十分な股関節伸展角度を挙げ,歩幅の減少の一要因であることを報告した。今回,3症例に共通して左右の歩幅は増大し,歩行速度に改善を認めており,HALは歩幅の増大に寄与することが示唆された。中枢神経疾患患者の立位姿勢は反張膝や骨盤前傾位をとり易く,歩行立脚期において骨盤中間位で股関節伸展運動を促通することは重要である。今回,2本杖を使用して歩行した症例A,Bの骨盤前傾角度は減少し,股関節最大伸展角度が増大した。一方,杖不要で歩行可能な症例Cの骨盤前傾角度は増大し,股関節最大伸展角度は減少した。このことからHAM患者の中でも杖不要の歩行可能例よりも,歩行時に杖を必要とするやや重症例が,HALの歩行練習に適応していると考える。【理学療法学研究としての意義】 HAM患者におけるHALを用いた歩行練習は歩行能力の改善に有用となる可能性が示唆された。