抄録
【はじめに、目的】 運動イメージは皮質脊髄路の興奮性を増大させることが報告されている(Kasai et al,1996).しかしながら,運動イメージは,随意運動に伴う感覚入力がないため,随意運動と比較すると充分な皮質脊髄路の興奮性変化を生じない可能性がある.末梢神経電気刺激(ES)は,末梢神経から中枢神経への感覚入力を増大するとともに,皮質脊髄路の興奮性を増大させることが可能である (Chipchase et al, 2010).そこで,運動イメージ中にESを同時に行うことで,運動イメージに伴う皮質脊髄路の興奮性をさらに増大させることが可能になると考えた.またESの刺激強度を変化させることで,感覚入力の量的変化に依存して皮質脊髄路の興奮性に影響を与えることが可能になると仮説を立てた. 本研究では,経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用い,ESが運動イメージに伴う皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響を検討した.【方法】 対象は健常成人6名(男性3名,女性3名,年齢24.7±4.1歳)であった.運動イメージは,対象者の前方に設置したモニター上に現れる母指の対立運動を行う動画に合わせて運動企図を行うものとした.ESは電気刺激装置SEN-8203(日本光電社製)を使用し,周波数10Hz,パルス幅1msにて,手根部で尺骨神経を刺激した.ES強度は,運動閾値上刺激および感覚閾値上刺激の2つの強度とした.運動閾値上刺激は,母指の筋収縮が生じる強度の1.1倍とした.感覚閾値上刺激は,刺激の知覚が可能な強度の1.1倍とした.課題は(1)運動イメージのみ,(2)ES(運動閾値上)のみ,(3)ES(感覚閾値上)のみ,(4)運動イメージとES(運動閾値上),(5)運動イメージとES(感覚閾値上)の5課題をランダムに実施した. 皮質脊髄路の興奮性の評価は,TMSにて母指球筋と小指外転筋の運動誘発電位(MEP)を記録した.刺激強度は,安静時閾値(50μVのMEPが50%以上の確率で出現する強度)の1.2倍とした.TMSは動画に合わせて運動イメージし, 動画上で母指と小指の先端が接した時に与えMEPを誘発した. なお、それぞれの課題で10回のMEPを導出した. データ解析は,それぞれの課題で平均MEP振幅を算出し,介入前の安静時MEPに対する比を求めた.また,ES強度の違いが運動イメージに与える影響を検討するため,運動イメージとESを合わせた際のMEPを,運動イメージで得られるMEPで除し,ESを合わせることによる増加比を算出した.統計解析は,それぞれの課題による皮質脊髄路の興奮性変化を検討するため,各筋で反復測定分散分析およびBonferroni検定を実施した.またES強度による効果の違いを検討するため,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行われた.実験の内容について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験を行った.【結果】 運動イメージとESを同時に行うことで,ES単独と比較して,刺激強度が運動閾値上,感覚閾値上ともに母指球筋で有意な増大を示した(p<0.01).また,運動イメージと感覚閾値上のESを同時に行うことで,運動イメージ単独と比較して,母指球筋で有意な増大を認めた(p<0.05).さらに, 小指外転筋においても,同様に,増大する傾向であった.これらの結果から,運動イメージとESを合わせることで,それぞれ単独よりも皮質脊髄路の興奮性は増大することが示された.また,運動イメージにES強度が及ぼす影響については,感覚閾値上刺激と比較し,運動閾値上刺激を同時に行うことで,母指球筋において有意な増大を認めた(p<0.05).さらに, 小指外転筋においても,運動閾値上刺激で増大する傾向であった.このようにES強度が増加することで,運動イメージによる皮質脊髄路の興奮性は増大した.【考察】 今回,運動イメージとともにESを与えることで,それぞれを単独と比較し,皮質脊髄路の興奮性が増大した.また,ES強度を変化させることで,その興奮性がさらに増大した.これは,運動イメージで欠如している感覚入力を,ESを同時に行うことで皮質脊髄路の興奮性を増大できるという仮説を支持するものと考えられる.さらに,ESは感覚情報の入力を量的に変化させることで,その興奮性を修飾できることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 運動イメージは,臨床で治療手段の1つとして用いられている,今回,運動イメージとESの併用使用が,運動イメージ単独より皮質脊髄路の興奮性を増大させ,さらなる治療効果が得られる可能性を示した.