理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
迷走神経活動を賦活できる条件設定の検討
─頭低位とSlow breathによる比較─
和久田 未来西田 裕介
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p. Ae0087

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抄録
【はじめに、目的】 心不全や慢性閉塞性肺疾患,糖尿病などの内部障害系疾患患者において,迷走神経活動の退縮が認められており,内部障害系疾患への罹患や運動耐容能の低下などと関係し合って,悪循環サイクルを生み出していることが推測される.さらに,迷走神経活動の退縮は加齢によっても生じることから,疾患の罹患に先行する可能性が高い.つまり,悪循環サイクルの根源は迷走神経活動の退縮であると考えられ,迷走神経活動に対して直接介入することに意義があると考えている.本研究では,迷走神経活動を賦活させる方法として,頭低位とSlow breathを設定した.頭低位は重力の影響により,姿勢変化のみで静脈還流量を増加でき,迷走神経により直接支配されている圧受容器反射を誘発させることができる.頭低位10°であれば,脳血流速度の上昇は認めないとの報告から,本研究の頭低位角度は脳血流動態の危険を担保できており,安全であるといえる.さらに,Slow breathは,呼吸による心拍のゆらぎを生成して迷走神経活動を増大し,呼吸ポンプによって静脈還流量を増加させて圧受容器反射を惹起することが可能である.最終的に,高齢者や疾患患者に対する迷走神経活動を賦活させる介入手段として確立するために,本研究ではまず,健常者を対象として,頭低位とSlow breathの介入により迷走神経活動が賦活するかどうかの検討を行った.【方法】 対象は,喫煙習慣がなく内部障害系疾患の既往のない健常男性20名(年齢:22±2歳,身長:169±6cm,体重:62±7kg)であった.測定プロトコルは,1セットを安静5分,頭低位5分,頭低位とSlow breathの併用5分の合計15分で,頭低位角度を6°と10°の2条件を設定し,測定順序はランダムとした.1セット目の前には20分以上の安静背臥位を設け,各セット間も20分以上の間を空け,各値が安静時まで戻っていることを確認してから2セット目の測定を実施した.また,頭低位による自律神経の変化を明確とするため,呼吸数を安静と頭低位は15回/分,Slow breathは6回/分に統制し,吸気:呼気は1:1とした.一連のプロトコルを通して,CM5誘導法を用いて心電図のRR間隔を測定し,心拍変動解析から迷走神経活動の指標であるrMSSDを算出した.また,静脈還流量の指標である脱酸素化ヘモグロビン量(Deoxy-Hb)は,近赤外線分光装置を使用して右外側広筋の筋腹にプローブを設定し,経時的に記録した.統計学的分析では,各頭低位角度における各データの安静と頭低位,頭低位とSlow breathの併用の3条件間の比較に一元配置分散分析を行い,その後の多重比較検定ではBonferroniの方法を用いて検討した.各指標は,平均±標準偏差で示し,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭にて実験の主旨を説明し,同意書にて研究参加の同意を得た.本研究の倫理的事項及び研究内容については,本学の倫理審査委員会に報告し,承諾を得てから研究を実施した.【結果】 頭低位の介入に関しては,頭低位6°では安静と比較して,Deoxy-Hb(5.77±1.56 vs 5.76±1.58)とrMSSD(66.6±32.1 vs 72.2±41.0)に有意差は認められなかった.一方,頭低位10°ではDeoxy-Hb(5.97±1.59 vs 5.85±1.60)が有意に低値,rMSSD(63.2±30.0 vs 70.2±32.4)が有意に高値を示した.頭低位とSlow breathの併用においては,安静と比較して頭低位6°,10°ともにDeoxy-Hb(頭低位6°:5.77±1.56 vs 5.63±1.53,頭低位10°:5.97±1.59 vs 5.79±1.59)の有意な減少が認められたが,rMSSDに有意差は認められなかった.【考察】 頭低位の介入において,頭低位10°ではDeoxy-Hbの有意な減少が示され,静脈還流量の増加が考えられた.また,rMSSDの有意な増加も認められ,迷走神経活動の賦活が示唆された.このことから,頭低位10°の介入は,静脈還流量を増加させて圧受容器反射を惹起し,迷走神経活動が賦活したと考えられる.頭低位とSlow breathの併用では,Deoxy-Hbが有意に低値を示しており,呼吸ポンプの影響で静脈還流量が増加したことが考えられる.しかし,迷走神経活動に変化は見られず,Slow breathによる横隔膜の過活動が酸素消費量を増加させ,圧受容器のリセッティングを引き起こし,反射閾値を上昇させた可能性が考えられる.以上より,迷走神経活動を直接調整している圧受容器反射を誘発し,効率的に迷走神経活動を賦活させるためには,頭低位10°の介入が有用であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 高齢者や疾患患者における迷走神経活動の退縮は,疾患への罹患や運動耐容能の低下と関連深いといわれている.このことから,頭低位10°という迷走神経活動を賦活させる条件設定の一案は,健康増進や疾病予防に寄与できる可能性があると考えている.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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