理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
自転車エルゴメーター駆動による低負荷の局所運動が僧帽筋の痛覚閾値と血液循環動態ならびに自律神経活動に及ぼす影響
中島 裕貴楯 健吾釼持 のぞみ大澤 武嗣城 由起子下 和弘松原 貴子
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p. Ae0098

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抄録
【はじめに、目的】 臨床において,骨折後のギプス固定や体重免荷,手術後の安静,脳卒中後の運動麻痺,疼痛そのものなどによって不活動を余儀なくされることは多い。近年,不活動が痛覚過敏を惹起し,“疼痛の悪循環”を助長することが明らかにされている。その機序に,痛覚受容器の感受性増大などの神経系の感作のほか,自律神経活動の変調,さらには交感神経の過活動による筋緊張亢進ならびに血液循環障害による組織の虚血などが関与すると考えられる。しかしながら,そのような罹患部へ直接アプローチすることが困難な場合が少なくない。したがって,不活動による疼痛の悪循環を遮断するためには,罹患部以外の遠隔部であっても早期に活動や運動を再開・導入する必要がある。近年,難治性疼痛患者を対象に本来の疼痛部位と離れた身体局所の運動によって疼痛症状が軽減する可能性が示され始めているが,その生理学的機序については不明な点が多い。そこで本研究では,自転車エルゴメーターを用いて低負荷の下肢運動が遠隔の僧帽筋における痛覚受容器の感受性と血液循環動態ならびに自律神経活動に及ぼす影響について検討した。【方法】 対象は健常若年男性20名(年齢20.5±1.1歳,身長170.8±5.3 cm,体重63.5±8.4 kg)とし,頚部および下肢に器質的障害や神経症状を有する者,心血管系疾患,薬剤を常用している者を除外した。低負荷局所運動として,自転車エルゴメーター(STB-3200,キャットアイ社)を用い,運動強度50 W(3 METs相当),回転数60 bpmの自転車駆動運動を20分間実施し,運動前後15分間を安静座位とした。測定項目は僧帽筋上部線維の圧痛閾値(PPT)と血液循環動態,深部温度,ならびに心拍変動(HRV)とした。PPTは,デジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用いて,運動前,運動中(運動開始より10分後),運動終了直後,15分後に加圧時の限界値として測定した。血液循環動態は,近赤外線分光装置(NIRO-200,浜松ホトニクス社)を用いて,酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)と総ヘモグロビン濃度(cHb)変化を,深部温度はコアテンプ(CM-210, TERUMO)を用いて測定した。HRVは,携帯型HRV記録装置(AC-301A,GMS社)を用いて経時的に測定し,心拍数(HR),さらに心電図R-R間隔の周波数解析から交感神経活動と副交感神経活動の指標となる低周波数成分(0.04~0.15 Hz:LF),副交感神経活動の指標となる高周波数成分(0.15~0.40 Hz:HF),交感神経活動を反映するLF/HFを算出した。血液循環動態,深部温度,HRVは,実験中経時的に記録し,運動前,運動中5分ごと,運動終了15分後の各5分間の平均値を測定値とした。統計学的解析は,Friedman testおよびTurkey typeの多重比較検定を行い,有意水準を5 %未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は全対象者に対して研究内容,安全対策,研究への同意と撤回,個人情報について十分に説明し,同意を得た上で行った。【結果】 運動前に比較して,PPTとO2Hb,cHbは運動中と終了15分後に有意に上昇し,深部温度は運動中と終了直後に有意に上昇,さらにHRとLF/HFは運動中に有意に上昇するとともに,HFは有意に減少した。 【考察】 自転車エルゴメーターによる低負荷の下肢運動により遠隔の非活動部で疼痛閾値が上昇し,加えて骨格筋への酸素供給量,血流量が増加するとともに深部温も上昇し,いずれも運動終了後まで持続した。また,自律神経活動については,運動中に心拍数と交感神経活動が上昇し,副交感神経活動が減少した。不活動が痛覚過敏を引き起こすとされている一方で,本研究のように局所的かつ低負荷であっても運動を行うことで広汎性に痛覚受容器の脱感作により疼痛を抑制することが示唆された。また,局所運動は交感神経活動の亢進など自律神経活動の生理的な反応を惹起し,その反応がトリガーとなって遠隔の非活動部の血液循環動態を増進し,疼痛の悪循環を遮断する可能性がある。以上のことより,低負荷局所運動は,広汎性に疼痛を抑制し,疼痛の悪循環を遮断しうるアプローチのひとつとして有効な手段であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 身体局所の低負荷運動が広汎性の疼痛抑制効果をもたらしたことは非常に独創的な結果であり,罹患部に直接理学療法アプローチを行えない場合の対応策として,また,疼痛発生・持続を予防するアプローチとして幅広い応用効果が期待できる点に意義がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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