理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習効果の検討
伊藤 慎英田辺 茂雄平野 哲才藤 栄一宮内 亨輔川端 純平伊藤 和樹尾崎 健一大塚 圭村上 涼
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p. Ba0284

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抄録

【はじめに、目的】 昨年,トヨタ自動車が開発した立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットとテレビゲームを組み合わせたバランス練習効果の予備的検討について報告した.この練習は2通りある.搭乗者の重心移動に連動して,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットが移動する機能を利用した能動的に行うバランス練習,もう一つは,搭乗者があらかじめ立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットに組み込まれた多様な外乱に抗して,ゲーム開始時の位置から移動しないようにする外乱対処練習である.この練習法の予備的検討では,バランス能力と下肢筋力の改善が示唆され,ゲーム性の導入が楽しく能動的な練習を可能とし,集中性や持続性に好影響があると考えた.我々は,従来のバランス練習法と比較して,安全で細かな難易度調整が実現でき,楽しく能動的な練習を可能にすると考えている.本研究では,予備的検討よりも症例数を増やし,中枢神経障害患者に対して,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習効果について統計処理を行い検討を行ったので報告する.【方法】 対象は,藤田保健衛生大学病院リハビリテーション科の通院歴があり,屋外歩行修正自立以上であるがバランス能力低下を認める中枢神経障害患者10例とした.対象の詳細は,年齢54±14歳,男性7例,女性3例,発症後33±28ヶ月,Berg Balance Scaleは49±5点であった.立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習は,1回に合計20分間,週2回の頻度で4週間,計8回行った.練習期間の前後に,快適歩行速度,継ぎ足歩行速度,重心動揺計を用いた安静立位(総軌跡長,実効値面積,外周面積), Functional Reach Test(以下:FRT),Cross Test,ハンドヘルドダイナモメータにて下肢筋力を測定した.測定筋は,腸腰筋,中殿筋,大腿四頭筋,ハムストリングス,前脛骨筋,下腿三頭筋の6筋とした.練習期間の前後の各評価について,Wilcoxonの符号付順位検定を用いて比較検討した. 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,藤田保健衛生大学の疫学・臨床研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.【結果】 継ぎ足歩行速度で平均6.2cm/sec (p<.01),Cross test前後移動距離で平均2.0cm (p<.01) と有意な改善を認めた.快適歩行速度で平均0.2km/h (p=.38),FRTで平均2.6cm (p=.07) と有意な変化を認めなかった.重心動揺計を用いた安静立位の総軌跡長で平均15.9cm (p=.69),実効値面積で平均0.3cm2(p=.69),外周面積で平均0.7cm2(p=.98)においても有意な変化を認めなかった.下肢筋力においては,腸腰筋で平均3.4kg(p<.01),中殿筋で平均3.3kg (p<.05),大腿四頭筋で平均3.1kg (p<.05),ハムストリングスで平均2.1kg (p<.05),前脛骨筋で平均7.8kg (p<.01)と有意な改善を認めたが,下腿三頭筋で平均6.9kg (p=.06) と有意な変化を認めなかった.【考察】 本研究では,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習でその効果を検討した.中枢神経障害患者において,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いた練習が,静的バランス能力においては不変であったが,動的バランス能力とほとんどの下肢筋力の改善を認めた.立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習は,通常では分かりにくい重心移動が実際の移動という形で体感でき,必要な運動を直接行う課題である.また,練習者に応じて適切な難易度課題をロボットによる安全な制御によって設定でき,運動学習の原則に相応したものになったため,動的バランス能力が向上したと推察する.静的バランス能力が不変であったことに関しては,練習の転移性から妥当な結果と考えている.今後は,下肢筋力の改善がこの練習のどの要素によってもたらされているか,さらに,従来バランス練習法のコントロール群などと比較して,この練習効果について明確にしていきたい.【理学療法学研究としての意義】 バランス能力低下を認め,日常生活活動が低下している中枢神経障害患者は非常に多い.理学療法を必要とするこの多くの対象を改善させる練習方法を考案することは,理学療法学研究として大変に意義のあるものである.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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