抄録
【はじめに、目的】 脳卒中急性期におけるリハビリテーション(以下、リハ)の早期介入や実施量の増加、チームとしての組織的アプローチが長期的な帰結を左右するというエビデンスが明らかにされている。相澤病院では12床の脳卒中ケアユニット内から早期リハを開始し、脳卒中脳神経センター及び脳卒中リハ科にて週7日体制で、高頻度集中リハを実践している。本研究の目的は、当院における脳卒中急性期リハ実施状況およびADL改善率を他のDPC病院と比較、分析し、高頻度集中リハ提供システムによるADLの改善の効果を検証することである。【方法】 対象は、グローバルヘルスコンサルティング社 (以下、GHC)にデータを提供している全国のDPC病院で、2011年4月~同年8月までに退院した、脳梗塞(DPCコード:010060)と、非外傷性頭蓋内血腫(DPCコード:010040)の患者とした。調査項目は、年齢、性別、平均在院日数、1日あたりリハ実施単位数、入院からリハ開始までの日数、リハ実施密度(リハ実施日数/在院日数)と、DPCデータから抽出した入退院時ADLスコアで、相澤病院と他病院とを比較した。なおADLスコアは、「平成23年度DPC導入の影響評価に係る調査」の中の、入退院時ADLスコア(全20点満点)のうち、整容・入浴・更衣の評価項目を除いた合計16点満点のスコアを用いた。さらに、入院時のADLスコアから、全ての項目が全介助の0点と、全自立の16点の患者を除外した。残る1点から15点の患者を3点ずつ5群に分類し(A群:1~3点、B群:4~6点、C群:7~9点、D群:10~12点、E群:13~15点)、各群内での退院時ADLスコアの改善率を比較した。 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究ではGHCが管理するDPCデータから抽出したものを使用しており、匿名性が確保されている。【結果】 対象者数は相澤病院159例/他病院(287施設)7470例(以下、相澤病院/他病院の順で数値を表記)であった。脳卒中発症時の平均年齢は、73.8±12.2歳/72.9±12.1歳で、性別は男性82名(女性77名)/男性4604名(女性2866名)であった。入院時ADLスコアの中央値は7点(最大15・最小1)他病院:中央値8点(最大15・最小1)であった。入院からリハ開始までの日数は、1.6±0.5日/3.7±3.8日(p<0.01)、1日あたりリハ実施単位数は6.3±1.9/2.8±1.4(p<0.01)、リハ実施密度は、88.2%/60.1%(P<0.01)であり、相澤病院は、他病院より早期から多くのリハを高密度に提供していることが明らかとなった。平均在院日数は、22.7±15.6日/25.4±20.8日で相澤病院が有意に短かった(p<0.05)。ADLスコアの改善度は5.39±5.03/4.02±4.73(P<0.01)、さらに、ADL改善率(ADLスコア改善度/在院日数)は、0.43±0.50/0.26±0.36(p<0.01)で、相澤病院が有意に高い値を示した。入院時ADLスコアを5群に分類した各群内のADL改善率の施設間比較では、低スコアのA群と高スコアのE群では病院間に有意差はなく、中間的スコアであるB群(p<0.05)、C群(p<0.05)、D群(p<0.01)で相澤病院が有意に高い改善率を示した。【考察】 急性期脳卒中患者の在院日数は、相澤病院で短く、また、ADL改善率も有意に高かった。これは、急性期脳卒中患者に対し、早期から高頻度集中リハを実施することが入院一日あたりのADLを有意に改善させ、その結果、在院期間の短縮に影響を与えたものと示唆される。また、入院時ADLから分類した5群のうち、B、C、D群の中間的スコア群に対して高頻度集中リハはより効果的であるが、A群、E群の低スコア群と高スコア群には効果が低い結果となった。このことから、極端な低ADL例と高ADL例に対する高頻度集中リハの適用については検討する必要性があるといえる。【理学療法学研究としての意義】 本邦における脳卒中急性期リハの現状から、高頻度集中リハを提供するシステムは、急性期脳卒中患者のADLを短い期間で改善させる可能性があり、更に限られたリハサービスをより効果的に提供するリハシステムの構築に寄与するものと思われる。