理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
圧迫が脊髄運動神経興奮性に与える影響
─脳血管障害者を対象に─
三浦 和黒澤 和生谷 浩明
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キーワード: 脳血管障害者, 圧迫, 痙縮
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p. Ba0964

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抄録
【はじめに、目的】 脳血管障害者の下腿三頭筋の痙縮、後脛骨筋の筋力維持は足部の内反尖足を引き起こし、患者の立位やトランスファー、歩行に大きな影響をおよぼす。理学療法の臨床において痙縮抑制の為に徒手や装具などの圧迫や固定が利用されており、その効果を実感することが多い。Robichaudらは、エアースプリントを使用し、健常者・脳血管障害者・脊髄損傷者のヒラメ筋脊髄運動神経興奮性低下の効果を証明した。一般に脊髄運動神経興奮性は痙縮の度合いを反映すると考えられているので、この結果は圧迫による痙縮抑制の効果を示したといえる。しかし、適切な圧迫強度や時間を明確にした先行研究はないため、我々は、健常成人で30~50mmHg3~5分のヒラメ筋筋腹への圧迫が、血流を阻害せず脊髄運動神経興奮性を低下させる効果をもつことを2010年の理学療法士学術大会で報告した。今回、脳血管障害者に対し、下肢を圧迫したときのヒラメ筋脊髄運動神経興奮性の変化を検証し、適切な圧迫強度や時間を明確にすることを目的に研究を行ったので報告する。【方法】 実験1:非麻痺側と麻痺側の脊髄運動神経興奮性の比較 対象は、脳血管障害者18名(男性16名・女性2名・年齢72±9.0歳・BRS3~6)。腹臥位にて、ヒラメ筋に誘発筋電位検査装置(日本光電:MEM2404)の電極を装着し、膝窩の脛骨神経を1Hzで刺激し、両下肢のM波とH波の閾値と最大振幅を測定した。比較の為のパラメーターとしてH波とM波の閾値比(以下Hth/Mth)、最大振幅比(以下Hmax/Mmax)、増加率比(以下Hslp/Mslp)の3つを算出し、非麻痺側と麻痺側の比較のため、t検定を行った。 実験2:麻痺側ヒラメ筋への圧迫効果 対象は、脳血管障害者11名(男性11名・年齢70.5±7.5歳)。麻痺側ヒラメ筋に誘発筋電位検査装置MEM2404の電極を装着し、膝窩の脛骨神経を1Hzで刺激し、M波と H波の閾値と最大振幅を測定した。下腿中心に大腿カフ(21cm幅)を装着し、圧迫強度20、30、40、50mmHgに水銀血圧計を使用し大腿カフをふくらませ、それぞれ圧迫中1分・3分・5分にM波とH波の閾値と最大振幅の測定を行った。Hth/Mth、Hmax/Mmax、Hslp/Mslpの3つを算出し、それぞれの圧迫強度と時間間の比較を目的に反復測定による2元配置の分散分析、多重比較(Bonferroni)を行い、圧迫の無い状態との比較にt検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得たのち研究を実施した。対象者全員に対して事前に説明およびアンケートを実施し、基礎情報の収集と研究への了承を得てから測定を行った。【結果】 脳血管障害者の麻痺側Hmax/Mmaxと非麻痺側Hmax/Mmaxの間には有意差がみられた(p<0.05)。Hth/Mth、Hslp/Mslpは麻痺側と非麻痺側間で有意差はみられなかった。圧迫のない状態と20-40mmHg1-5分、50mmHg1・3分の圧迫強度と時間間では有意差は認められなかった。50mmHg5分の圧迫のみ、有意差がみられた(p<.05)。【考察】 脊髄運動神経興奮性を示すHmax/Mmaxが非麻痺側と比較して麻痺側で有意に高まることが明らかとなった。Hmax/Mmaxは、麻痺の一側面である痙縮の程度を示している可能性があると考えられた。脳血管障害者は50mmHg5分以上の強度の圧迫により脊髄運動神経興奮性の低下が生じることが明らかとなり、健常者と比較して低下反応が生じにくい状態になっていることが考えられた。それが動作の安定性やスムーズさの阻害因子となっていることが考えられた。 【理学療法学研究としての意義】 非麻痺側より高まっている麻痺側の脊髄運動神経興奮性を50mmHg5分の圧迫が抑制することができ、臨床の場においても、より効果的に圧迫を使用することができると考えられる。また、サポーターや装具などに応用することが可能と考える。動作場面での圧迫の抑制効果を検証していくことが今後の課題である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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