抄録
【はじめに、目的】 近年,急性期脳血管障害患者に対し,Stroke Care Unitから理学療法を実施することが定着してきている.それとともに,急性期病院では入院早期から転院調整が開始されるため,より早期から予後予測に基づく的確な目標設定が求められている.しかし,発症後早期では意識障害や初期治療に伴うドレーン・ラインの留置等の影響から動作能力や日常生活動作能力が的確には捉えにくい場合も多く,これまでの急性期における報告では,発症後早期から予後予測を行ったものは少ない.そこで,我々は発症後5日以内の評価から約1ヶ月後の歩行の予後予測に関する判別式を作成し,9割以上の患者に対し歩行の可否を予測できることを報告した(2008年).新たな予測モデルの臨床応用に際して,判別式の交差妥当性を検討することが求められるが,先行研究の判別式が異なる標本においても適合するかは明らかではない.そこで本研究は,先行研究で作成した判別式に2009年の検証標本(以下,検証標本)を当てはめ,交差妥当性を検討することを目的とした.【方法】 対象は,2009年4月~9月までに当院脳卒中センターに入院し,理学療法を施行した脳出血,脳梗塞の52例とした.対象者の内訳は,疾患が脳出血17例/脳梗塞35例,性別が男性33例/女性19例,年齢が71.9±13.1歳(平均値±SD)(37~97歳),入院期間が28.9±15.3日(6~67日),理学療法実施期間が24.1±14.9日(1~65日)であった.除外基準は先行研究に準じ,脳血管障害再発例,死亡例,アルプラーゼ静注療法施行例,くも膜下出血例,テント下病変例とした.方法は,判別式に用いる4変数{年齢,疾患(脳出血=0/脳梗塞=1),脳卒中運動機能障害重症度スケール(以下,JSS-M),Trunk Control Test(以下,TCT)}を発症後5日以内に評価し,判別式{y=-0.019×年齢+0.690×疾患+0.034×TCT-0.044×JSS-M-0.099(定数)}に当てはめ,判別得点を算出した.次に,判別得点のカットオフ値を基準に歩行の自立/非自立に関する判別的中率を求めた.なお,歩行の自立/非自立は,退院時のFunctional Independence Measureの移動項目(歩行)が6,7点を自立群,5点以下を非自立群とした.統計処理には解析ソフトSPSS ver.16.0を使用した.統計学的手法にはROC曲線を用い,歩行の可否を判別するカットオフ値を求めた.カットオフ値は感度,特異度が100%に近接する値を採用し,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って行った.対象となる全ての患者もしくは家族に書面にて本研究の目的を説明し,署名にて同意を得た.【結果】 判別式に検証標本を当てはめた結果,判別得点の平均値は0.19±2.12点であった.カットオフ値は1.104点(感度:0.909,特異度:0.067)であり,その結果から導いた判別的中率は,歩行自立群で90.9%,非自立群で93.3%であった(p<0.01).【考察】 我々の作成した判別式に検証標本を当てはめ交差妥当性を検証した結果,判別得点のカットオフ値は感度・特異度ともに良好であり,判別的中率も非常に高かった.本研究の結果から,判別式の交差妥当性は高く,異なる標本においても適合できることが示唆された.以上から,発症後から約1ヶ月程度の脳血管障害患者であれば,本予測モデルは十分適用できると考えられた.しかし,今回の研究は同一施設での異なる検証結果であるため,今後は複数施設間を対象とした研究が必要になると考える.【理学療法学研究としての意義】 我々が作成した新しい予測モデルの臨床応用に際して,検証群を用いた予測精度の検討を行うことは,予測モデルの適応を把握するために有用であると考える.