理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
NIHSS下位項目を用いた脳卒中患者歩行自立予測の検討
井所 拓哉山鹿 隆義栗原 秀行石黒 幸司
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キーワード: 脳卒中, 帰結予測, NIHSS
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p. Bb0528

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抄録
【はじめに、目的】 National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)は脳卒中治療ガイドライン2009で使用が推奨されている包括的評価尺度のひとつであり,脳卒中発症早期のNIHSSスコアは機能的帰結と関連し,機能回復の強力な予測因子であることが知られている.NIHSSは一般的な脳卒中の症候を評価するために15項目から構成されているが,各下位項目と機能的帰結との関連については詳細に検討されているとはいえない.本研究の目的は,歩行能力の帰結に寄与するNIHSS下位項目を明らかにし,抽出されたNIHSS下位項目を用いた帰結予測モデルが従来のNIHSSスコアに比べて機能的帰結の予測精度を向上し得るか後ろ向きに検討することである.【方法】 対象の取り込み基準は,2010年1月から2011年3月に当院に入院し,リハビリテーション依頼のあった急性発症脳卒中患者のうち,テント上脳卒中病変で発症3日以内のNIHSS評価および急性期または回復期病院退院時ADLの後ろ向き調査が可能であった者とした.除外基準は,入院前ADLがmodified Rankin Scale≧3,死亡または重篤な合併症によりリハビリテーション治療継続困難となった者とした.解析対象は119例(平均年齢69.6(SD12.2)歳,男性68例,女性51例,脳梗塞66例,脳出血53例)であった.発症3日以内のNIHSSと急性期または回復期病院の最終退院時のFunctional Independence Measure(FIM)歩行項目,その他に背景因子として年齢,性別,脳卒中病型,病巣側を調査した. 統計学的解析として,FIM歩行項目6点以上を歩行自立群,5点以下を歩行非自立群に分け,2群を従属変数,NIHSS下位項目,背景因子を独立変数としてロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った.さらに2群を従属変数,作成されたロジスティック回帰モデルから求めた歩行自立確率,NIHSSスコアをそれぞれ独立変数としたROC曲線(Receiver Operating Characteristic Curve)を作成し,判別能の指標であるROC曲線下面積(Area Under the Curve,AUC)を求め,Hanley JAら(1983)の方法を用いて独立変数間でのAUCを比較した.全ての統計学的解析の有意水準はP=0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,文部科学省・厚生労働省の「疫学研究に関する倫理指針(平成20年12月1日一部改訂)」を遵守し,当院の臨床研究倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 対象者の急性期,回復期病院を合わせた入院期間は平均89.5(72.4)日,NIHSSスコアは中央値6(範囲1-39),歩行自立群は79例(66.4%)であった.ロジスティック回帰分析の結果,歩行自立に寄与する有意な独立変数はNIHSS麻痺側下肢運動項目(オッズ比0.298,95%信頼区間0.187-0.475),年齢(オッズ比0.853,95%信頼区間0.793-0.917)であった(それぞれP<0.001).ROC曲線解析から求めたAUCは,ロジスティック回帰モデルによる歩行自立確率0.922,NIHSSスコア0.820であり,両独立変数間に有意差を認めた(P=0.002).【考察】 発症早期のNIHSS下位項目のうち,麻痺側下肢運動項目が歩行能力の帰結に寄与していた.発症早期の麻痺側機能が重要なことは経験的に知られており,本研究結果より発症早期の麻痺側下肢機能の重要性が再確認され,またその評価指標としてNIHSS下肢運動項目の予測的妥当性が示された. NIHSS麻痺側下肢運動項目に年齢を加えた帰結予測モデルはNIHSSスコアよりも有意に医療機関退院時の歩行自立可否を判別し得ることが示唆された.NIHSSのような包括的評価尺度では複数の神経学的所見や機能障害を評価することからその総得点を個々の機能の予測因子として用いることは限界があるため,予測する機能に応じてそれを反映する項目を選択した予測モデルを構築することが重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 脳卒中後の移動能力の再獲得は理学療法の主な介入目的である.近年,より急性期からの積極的なリハビリテーション介入が進められる中で機能的帰結を見据えた適切な介入が重要であり,本研究結果から得られた発症早期からの歩行能力の帰結予測に関する知見はその一助となるものと考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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