理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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当院回復期病棟入棟時のFIM、FBSによる歩行自立の予測精度に関する検討
武田 尊徳中村 有希西尾 匡紀丸毛 達也實 結樹
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p. Bb0540

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中患者の機能的評価スケールとしてFunctional Balance Scale(FBS)は広く用いられ、また日常生活能力の評価スケールとしてはFunctional Independence measure(FIM)が広く使われている。脳卒中予後予測についての検討は多くなされているものの年齢や病変部位、Brunstrom Stageによる報告が多く、FBSやFIMなど機能的評価スケールによる報告は少ない。また歩行自立度の予測に関する報告は散見されるが、その際使用する歩行補助具の予測についての報告は少なく確立したエビデンスがないため、臨床上理学療法介入による歩行補助具の決定は治療者個人の主観的判断に基づく事が多い。本研究の目的は回復期病棟入棟時のFBS、FIMを用いた歩行自立度の予後予測精度について検討し、さらに客観的機能評価尺度から歩行補助具の適応が行えるかを検討する事である。【方法】 対象は平成22年3月から平成23年3月の間に当院回復期病棟を退院し、入院中脳血管疾患にて理学療法介入があった全症例のうち、後方視的調査が可能であった74例(平均年齢71.2±13.2歳、男性45名、女性29名、脳出血43例、脳梗塞31例)。症状が脳器質障害によらない者、入院中に症状の憎悪を認めた者、発症が初発でない者、退院後の生活環境などの理由で移動様式が制限された者は除外した。対象者の回復期病棟入棟時と退院時のFBS、FIMの得点を後方視的に調査した。歩行自立度は退院時のFIM歩行項目6点以上を自立群、5点以下を非自立群と判断に分け、これらの2群を従属変数、入棟時FBS、FIM(運動項目合計、認知項目合計、総合計)の得点および属性データ(年齢、性別)を独立変数として2群間で差の検定を行った。さらに、差の検定でp<0.05の項目について相関分析を行い、相関係数<0.9の項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(総当たり法)を行った。また歩行自立群のなかで使用している歩行補助具から分類し、各群の退院時FBS得点を独立変数として差の検定を行った。統計解析にはR.2.8.1にて、Mann-Whitneyの検定、χ2検定、spearmanの順位和相関、多重ロジスティック回帰分析をそれぞれ用い、有意水準は1%、または5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 データの収集・分析には厚生労働省の定める「臨床研究に関する倫理指針」に基づいて行い、本研究は当院の倫理委員会にて承認されたものである(受付番号110番)。【結果】 歩行自立群22名(年齢71.7±11.6歳、運動項目69.4点、認知項目26.9点、総合計96.3点、FBS45.8点)、歩行非自立群52名(年齢71.0±13.9歳、運動項目33.5点、認知項目14.8点、総合計48.3点、FBS18.8点)で、運動項目、認知項目、総合計、FBSで有意な差が認められた。各項目間で運動項目と合計、運動項目とFBSにそれぞれ高い相関が認められた。運動項目と認知項目を独立変数として行った多重ロジスティック回帰分析で両項目とも高いオッズ比が得られた(モデルχ2検定:p<0.01、判別的中率94.6%、運動項目:p<0.01、オッズ比1.28、認知項目:p<0.05、オッズ比1.59、)。歩行自立群の中で独歩群12名(退院時FBS52.0点)、T-cane群10名(退院時FBS51.0点)で、退院時FBS は2群間で有意な差は認められなかった。【考察】 回復期入棟時のFIM、FBSがともに群間で有意差を認めたことから、両評価スケールは退院時の歩行自立度を判別出来ると考えられる。また、運動項目と認知項目とも高いオッズ比を示し、このモデルで高い的中率を示したことから、両項目により高い精度で退院時の歩行自立度の予測が出来る可能性が示唆された。しかし、今回の結果から検討した4項目中で有意性の高さを判別するには至らなかった。歩行補助具の適応基準は退院時FBSを用いて検討する事が出来なかった。自立群のFBS平均が高く、総得点による判別では上位項目の点数による天井効果により判別が困難であったと考えられる。今後サンプル数を増やし、評価スケールを変更して再検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 早期から精度の高い予後予測を可能にすることで、標準的・効率的なプログラムの作成に寄与する事が出来る。標準プログラムを作成、運用し多数例と比較した評価を適宜行っていく事によって、より個別性に配慮した理学療法を展開する事が可能になり、患者の機能回復、QOL向上の為に一役担う事が可能になる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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