抄録
【はじめに、目的】 小児理学療法における臨床場面において、脳性まひ児・者(以下、CP児・者)の活動・参加に目標をおいて実施している。その中で運動機能向上を目的に粗大運動の動作訓練やバランス訓練を実施している。しかし、粗大運動能力やバランス能力がCP児・者の活動にどの程度影響しているかは明確ではない。そこで、活動の一つである日常生活活動(以下、ADL)に焦点を当て、CP児・者のADLに粗大運動能力やバランス能力がどの様に影響しているのかを調査した。【方法】 立位保持が可能な者で、知的発達年齢6歳以上で検査者の指示が理解可能なCP児・者71名(男性43名、女性28名)を対象とした。また、CP児・者の麻痺の分布は両麻痺および四肢麻痺とした。年齢は平均22.9歳(SD=14.67歳)、粗大運動能力分類システム(以下、GMFCS)レベル1:36名、レベル2:16名、レベル3:15名、レベル4:4名であった。尚、年齢18歳以上の対象者は各GMFCSレベルの移動手段を基準に分類した。方法は、粗大運動能力の評価として粗大運動能力尺度(以下、GMFM)を計測した。バランス評価はBergらにより高齢者のバランス能力の評価を目的に開発され、日常生活と関連のある14項目からなるBerg Balance Scale(以下、BBS)を計測した。ADL評価としてFunctional Independence Measure(以下、FIM)、Barthel Index(以下、BI)を計測した。尚、GMFMはGMFM-66にて計測し、Gross Motor Ability EstimatorによってGMFM66scoreを算出した。その後各々の平均値を出し、統計処理を実施した。統計処理ソフトはSPSSを使用し、相関関係についてはPearsonの相関係数を算出し、有意水準(両側)を1%とした。また、粗大運動能力やバランス能力がADLに与える影響を検討するために、強制投入法による重回帰分析を行い、有意水準(両側)を1%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の研究の主旨を口頭ならびに文書にて説明し、本人及び保護者に同意を得た方のみ調査した。【結果】 平均BBS(点)は42.07/56、平均GMFMscoreは75.77/100、平均FIM(点)は112.3/126、平均BI(点)は86.70/100であった。ADL、粗大運動能力、バランス能力の関連について2変数間での相関関係を調べた結果、BBSとGMFMは強い正の相関関係(r=0.874,p<0.01)、BBSとFIMは中等度の正の相関関係(r=0.552,p<0.01)、BBSとBIは中等度の正の相関関係(r=0.644,p<0.01)、FIMとGMFMは中等度の正の相関関係(r=0.631,p<0.01)、BIとGMFMは中等度の正の相関関係(r=0.688,p<0.01)であった。最後にADL評価法であるFIMとBIを従属変数とし、GMFM、BBSを独立変数とした重回帰分析をそれぞれについて行った結果、従属変数がFIMの場合GMFMが有意に影響していた(β=0.630,p<0.01)。また従属変数がBIの場合もGMFMが有意に影響していた(β=0.527,p<0.01)。従属変数がFIMの場合BBSは有意差が見られなかった(β=0.002,p=0.992)。また従属変数がBIの場合もBBSは有意差が見られなかった (β=0.183,p=0.311)。【考察】 今回の我々の研究から、ADLとBBS、GMFMの3変数間での重回帰分析の結果、ADLをGMFMで説明することは可能であるが、BBSではADLを説明できなかった。しかし、BBSとADLの2変数間において正の相関関係が見られており、また臨床場面においてもバランス能力はADLと関連していると思われる。これらより、今回使用した高齢者のバランステストであるBBSの項目では、多種多様な手段・方法を用いて遂行しているCP児・者のADLを十分に表すことはできないと思われ、項目を再検討する必要があると考えられた。今後項目に再検討を加え、ADLとの関連性を更に研究したい。【理学療法学研究としての意義】 CP児・者の粗大運動動作能力やバランス能力とADLとの関連性の証明は、小児理学療法を行っていく上で意義があると思われる。しかし、バランス能力とADLとの関連性を示すにはバランステストの項目の再検討に加え、CP児・者のADLの質的な評価も必要であると考える。