抄録
【はじめに,目的】 重度脳性麻痺者(以CP)の二次障害として脊椎側彎症の発症はよく知られている.脊椎側彎は長期に渡り年齢とともに著明な進行がみられ,嚥下機能や活動性の低下,呼吸機能の障害など様々な障害を引き起こす要因となることが多い.しかし,側彎症の発症の時期や長期に渡っての自然経過についての報告は少ない.そこで本研究では幼少期から現在に至るまで,過去約40年間に渡り側彎の経年的変化を後方視的に追い,脊柱の側彎変形の進行を後方視的に検討すること,それを踏まえて今後の課題を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は当院に35年以上入院しており,粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)レベル5レベルの脳性麻痺者14名(男性7名,女性7名)で,初期側彎評価時には側彎の発症が認められず,側彎の経過が35年以上追跡でき,定期的に側彎評価が可能であったものとした.平均年齢は42.8±4.8歳(初期評価時平均年齢5.2±3.3歳),調査期間は平均38.8±2.8年間であった.脊椎側彎変形は,毎年通常の診察時に撮影したレントゲン画像を用い,臥位での全脊椎正面像から,Cobb法によりCobb角の算出が可能なものを選択した.Cobb角算出が不可な年については,前後の年から差を算出し推定Cobb角を算出した.そして,側彎発症時の年齢を12歳以上(以下A群)平均発症年齢14.0±4.2歳と12歳未満(以下B群)平均発症年齢7.7±3.4歳に分け,発症年齢による最終評価時(最終評価時平均年齢42.8±4.3歳)での年齢および,側彎の大きさについて検討した.また年齢を0~6歳(以下1期),7~12歳(以下2期),13~18歳(以下3期),19~24歳(以下4期),25~30歳(以下5期)の6年ごとに5つの区分に分け,A群,B群で,それぞれの各区分間での群内比較と,各区分でA群,B群の群間比較をし,側彎の各区分における変化量について検討した.統計処理として,A群とB群の最終評価時の年齢およびCobb角を対応のあるt検定により検討し,A群とB群の群内および,それぞれの各区分による群間での側彎の進行の変化量を2元配置分散分析により検討した.【説明と同意】 今回の研究は,後方視的に解析したものであり,通常の医療で行われたレントゲン画像の評価を用いている.データの使用に関しては院内での所定の規定による許可を得て行った.【結果】 A群とB群の最終評価時のCobb角の比較では,有意な差が認められた(p<0.05).A群ともB群それぞれの6年ごとの側彎の変化量は,両群ともに年齢区分によって有意な差がみとめられ,A群では3期二おいて他の期より有意な差が認められ(p<0.05),その後の変化量は一定の値を示した.B群では2期から3期にかけて有意な差が認められ(p<0.05),4期以降は急激な変化はみられなかった.また各区分で群間での比較をすると,2期と3期ともにB群が有意に大きくなり差が認められ(p<0.05),4期,5期では変化量に差は認められなかった.【考察】 本研究の結果,側彎は発症の年齢が12歳前後で最終的な重症度が異なり,12歳未満での発症では将来的に側彎が強くなることが示唆された.またA群とB群とで側彎の進行の変化量が大きく異なっていたことから発症の年齢により,側彎の増加の推移が異なることが示唆された.両群とも似3期(13~18歳)野成長期に当たる時期に側彎の進行が顕著であるが,12歳未満の発症では,この時期の変化の影響を受けやすいことが原因であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 側彎の経年的変化を追い今後さらに他の障害と脊柱の側彎変形の進行との関係についても後方視的に検討していくことで,側彎に伴う二次障害や,側彎の障害像や予後予測を描くことができる.これにより今後の理学療法の評価の視点や治療プログラム,アプローチを立案するうえで重要な指標とすることができる.このことは,重度脳性麻痺者の側彎進行に対して,適切かつより効果的な理学療法の提供に繋がると思われる.