抄録
【はじめに、目的】 熊本県理学療法士協会福祉部では、平成17年より保育士、幼稚園教諭、保健師を対象に、「障害を持つ子ども達の理解と支援」という研修会を県内各地域で開催してきた。平成23年で県内全域の研修会開催を終えたのを機に、研修会終了毎に実施していたアンケート調査の結果を基に、今後小児理学療法士(以下小児PT)が地域療育へどう関わるのか、支援方法について検討したので報告する。【方法】 1)研修会概要:本県の平成17年時は小児リハ専門施設4ヶ所、専門病院2ヶ所が設置されていたが、面積の広い本県では療育の地域格差が大きく、障害を持つ子ども達(以下子ども達)の多くは遠方から小児リハ専門施設に通っていた。当時は広汎性発達障害児が医療機関のみでなく乳児健診、保育園などの地域療育の場で多くみられるようになっていた時期で、各々の現場ではその対応に苦慮していた。また当時の研修会は医療、心理的視点がほとんどであったため、小児PTの知識や技術が地域療育に貢献できないかということで、研修会を開催することとなった。研修会は平成17~23年の7年間に年1回ずつ各地域に訪問し研修会を開催した。開催地は、熊本市1、山鹿市、天草市、人吉市、阿蘇市、八代市、熊本市2の7か所。プログラムは、小児PTから乳幼児期の子ども達の運動発達特性の理解と支援、臨床心理士からは自閉症児の特性の理解と支援。研修会終了時にアンケート調査(以下調査)を行った。内容は、1勉強できたこと、2地域療育支援・連携に関する要望の2項目である(いずれも自由回答)。2)対象及び集計方法:対象:平成17~23年に実施した研修会の参加者341名。集計方法:1調査結果を各項目で類似する回答内容に分類分けし、回答数の多かった上位3項目を全体、地域毎に集計した。2結果を参考に今後の小児PTの地域療育における役割について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象には、本研究について説明を行い同意を得ている。【結果】 参加者は、天草市78名が最も多く、その他の地域で50名前後であった。全体の79.5%が保育士、幼稚園教諭が占めていた。回答者は294名で各地域平均回答率88%であった。まず、設問1の回答は、1自閉症児の具体的支援(25.5%)2乳幼児期の運動発達特性(21.3%)3乳幼児期の障害に応じた支援(20.3%)であった。地域別には、熊本市及びその周辺地域(以下熊本市周辺)では「乳幼児期の運動発達特性と支援」、阿蘇市、天草市、人吉市(以下地方都市)では、「自閉症児の具体的支援」に関心が向けられていた。設問2の回答は、1研修会開催(30.6%)2保育園訪問指導(29.9%)3事例検討会(15.7%)であった。地域別には、熊本市周辺では「保育園訪問指導」、「事例検討会」、地方都市では「研修会開催」「事例検討会」が要望されていた。【考察】 障害者プランの施策であった通園事業(障害者自立支援法以降は児童デイサービス)や障害者(児)地域療育等支援事業などの整備以降、地域で生活する子ども達に対して、各自治体で様々な取り組みが行われている。熊本県、熊本市でも独自の障害児施策を実施している。しかし、今回の調査結果のように子ども達の生活の場での支援状況は、まだ十分とはいえないようである。以下に、調査結果を踏まえながら今後の支援方法について検討する。設問1では、熊本市周辺と地方都市で関心を持つ内容に違いがみられた。これは、広汎性発達障害児の増加に伴い、自閉症児に関する情報が必要となっている状況で、熊本市周辺では様々な研修会等で得やすいが、地方では情報を得にくい環境にあると推察される。この意味では、我々の各地域を訪問しての研修会は地域間の情報格差軽減に役立っていると考えられる。設問2では、熊本市周辺は、園への訪問や事例検討など個別の対応方法を知りたい傾向にあり、地方都市では研修会での知識向上に関心がある状況で両者に差がみられた。これは、前述した情報格差と共に熊本市周辺では子ども達への実践が増えるにつれ、具体的な解決策を必要としてきていることが予測された。したがって、この現状から、地方都市では研修会を継続しつつ事例検討などを部分的に取り入れる。熊本市周辺では、地域の療育関係者と連携をとり事例検討会を定期的に開催できるようにしていきたいと考えている。最後に、本県では木原らの報告のような県士会レベルでの小児PT間の連携が未整備であるため、その部分も整備しつつ地域療育を支える方々と連携しながら、子ども達の生活を支援できるように活動していきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 今後地域の保育園では障害を持つ子ども達の増加が予想され、この領域での小児PTの必要性が高くなってくることが考えられる。その為現時点でこの領域で我々のできることを積み上げておくことは大変重要である。