理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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足底への体性感覚刺激の質的差異と運動イメージ想起が体性感覚誘発電位に及ぼす影響
長谷川 隆史道口 康二郎佐賀里 昭田平 隆行
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p. Bb1422

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抄録

【はじめに、目的】 座位・立位・歩行などの抗重力姿勢での運動実行において,足底感覚情報を介して外部環境との関係性を構築することは不可欠であるとされている(諸橋,2006).床面の環境変化に応じて足底への体性感覚刺激の質的差異が生じ,運動戦略が変化することで歩容も変化することがある.一方,NIRSを用いて歩行運動イメージを想起することにより感覚運動関連領野の興奮性が高まるとの報告もあるが,一定した見解が得られておらず,その有用性については電気生理学的手法など他の方法でも検討する必要性があると思われる. また,手指での体性感覚刺激の種類の差異を識別した際の体性感覚野の興奮性の違いを検証した研究は多く見られるが,足底への体性感覚刺激の種類の差異と体性感覚野の興奮性の違いについて報告した例は数少ない. 体性感覚誘発電位(Somatosensory Evoked Potential:SEP)は,体性感覚野の興奮性を調べる指標であり,前後期の成分分析により体性感覚の入力動態を検討することが可能である.そこで,本研究では歩行運動イメージ想起の関与と,足底への体性感覚刺激の質的差異の関与が体性感覚野への入力動態に及ぼす影響についてSEPを用いて検討し,歩行におけるMental Practiceの効果を体性感覚の視点から明らかにしたい.【方法】 対象は,健常成人13名(男11名,女性2名,平均年齢27.1±5.70歳)であった.被験者は,椅子座位で,両膝関節90°屈曲位でリラックスした状態で足底を床面に十分に接地した.実験条件は1)安静条件(床面・砂利面接地),2)歩行運動イメージ条件(床面・砂利面接地),の合計4条件とした.SEPの刺激部位は右膝窩部の脛骨神経とし,0.3msecの矩形波を1Hzの頻度で1条件につき100回電気刺激した.刺激強度は右ヒラメ筋から導出したM波閾値の1.3倍とし,常時モニターした.記録電極は,国際10/20法に基づきCPc,CPiから導出し,基準電極を両耳朶とした.得られた100回の加算平均波形よりP35,N42,P53を同定し,振幅(onset-to-peak)を各条件で比較した.また,運動イメージ条件ではMIQ-Rにて運動感覚の鮮明度について主観的評価を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究目的・内容について紙面及び口頭で説明を行い,同意を得られた者に対してのみ実験を行った.【結果】 砂利の有無,運動イメージ想起の有無を従属変数とする二元配置分散分析にて統計処理を行った.その結果,両側共にP53成分において砂利の有無に関してのみ主効果が認められ,砂利面が床面より高振幅の傾向を示した(CPc:P<0.05,CPi:P<0.1).交互作用は認められなかった.その他の各成分における有意差は認められなかった.また,MIQ-RについてWilcoxonの符号付順位検定を行った結果,砂利面条件で運動イメージを想起しやすいとの有意な差を認めた(p<0.05).【考察】 下肢SEPにおいて短期成分(P35)は一次体性感覚野への体性感覚刺激の入力動態を,長期成分(P53)は二次体性感覚野を含めた高次な脳領域へのそれを示すと考えられている.今回,P35各条件について比較した結果,左右共に一次体性感覚野に影響を及ぼすような振幅差はなかった.しかし,P53において砂利面に足底を接地する条件で両側共に振幅が上昇する傾向が見られた.これについては体性感覚刺激の質的差異の識別に対して,一次体性感覚野の活動よりも,二次体性感覚野を含めた更に高次な脳領域の活動が関与していることが示唆される. また,MIQ-Rにて砂利面条件において床面条件と比較すると運動イメージ想起しやすい結果となった.しかし,P53振幅値に運動イメージ想起の有無との関与はなかった.従って,今回の実験においてSEP後期成分は,イメージの鮮明度よりも足底への体性感覚刺激の質的差異に対して顕著な反応を示したことから,歩行運動イメージによるMental Practiceを実施する際には,足底への体性感覚刺激の質的差異にも留意する必要があると思われた. しかしながら,下肢のSEPについての報告は少なく,さらに刺激位置や各成分の潜時帯における報告間での相違もあり,成分同定の難しさなどの問題も残った.今後詳細の検討が必要と思われる.【理学療法学研究としての意義】 足底への体性感覚刺激の質的差異が体性感覚野に及ぼす影響についてSEPを用いて検証した研究はこれまでない.本研究により,その差異を識別するにあたり二次体性感覚野の活動が関与している傾向が示唆された.臨床応用についてはまだ検討の余地はあるが,Mental Practiceを実施する際に,運動イメージの鮮明度を向上させるための課題内容を再考するための一助となる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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