理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激 (Whole body vibration) による痙縮抑制効果について
宮良 広大松元 秀次上間 智博廣川 琢也野間 知一川平 和美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Bb1423

詳細
抄録
【はじめに、目的】 痙縮に対する治療法として,我々は振動刺激を用いた新たな痙縮抑制法を確立し,脳卒中上肢の痙縮筋を直接振動刺激する方法や運動療法と併用することでその操作性を向上させることを報告している。全身振動刺激 (Whole body vibration: WBV) の臨床応用については,成人脳性麻痺や脊髄損傷患者に於ける痙縮抑制効果についての報告はあるが,脳卒中片麻痺患者についての報告は少ない。今回,我々は脳卒中片麻痺下肢に対するWBVの即時的な痙縮抑制効果を検討した。【方法】 対象は,当院に入院中の脳卒中片麻痺患者19名で,下肢Brunnstrom Recovery Stageが3以上で,屋内歩行が短下肢装具やT字杖を用いて監視レベル以上のものである。なお,医学的管理上問題があるもの,重度の高次脳機能障害や認知症,心肺疾患,骨関節疾患,感覚障害を有するものは除外した。研究デザインは介入前後比較試験を用い,振動刺激の前後に評価を行った。被験者の姿勢は椅子上で長座位とし,ハムストリングスと下腿三頭筋へ,Power Plate® (株式会社プロティア・ジャパン社製) を用いて振動刺激を行った。刺激時の姿勢は麻痺側下腿部全体及び大腿部1/2以上をPower Plate®の台上に乗せ,背部に置いた背もたれと大腿部のベルト固定によって,股関節を屈曲位,内外旋中間位,膝関節伸展位にした。刺激中は痛みが出現しない範囲で膝関節,足関節をそれぞれ被験者の最大可動域に保持した。刺激条件は,周波数はHighスイッチの30Hz,実施時間は5分間とした。評価項目は,他動関節可動域 {以下,ROM; 長座位での体幹前屈角度,straight leg raising test (以下,SLR検査),足関節背屈角度},Modified Ashworth Scale (以下,MAS; 股関節外転,膝関節伸展,足関節背屈) を測定した。MASは統計学的解析のために,グレード0,1,1+,2を各々,0,1,2,3として処理した。歩行評価は短下肢装具装着下での10m歩行で行い,歩行速度とケイデンスを測定した。統計学的解析は,Excel ystat 2002を用いてWilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,鹿児島大学病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を説明し,同意を得て実施した。【結果】 介入前後の変化を以下に示す。ROMは体幹前屈角度 (前: 98.4±12.9,後: 105.8±13.0度),SLR検査 (前: 75.5±6.6,後: 83.7±7.4度),足関節背屈角度 (前: 15.8±7.1,後: 19.2±6.3度) において有意な改善を示した (p<0.01)。MASは股関節外転 (前: 1.3±0.7,後: 0.9±0.7, p<0.05),膝関節伸展 (前: 1.3±0.9,後: 0.5±0.5, p<0.01),足関節背屈 (前: 2.1±0.8,後: 1.5±0.7, p<0.01) において有意な改善を示した。歩行能力は10m歩行速度 (前: 33.8±19.1,後: 35.7±20.1m/min) に有意な改善を示し (p<0.05),ケイデンスに有意差は認められなかった (p=0.18)。【考察】 本研究では,脳卒中片麻痺下肢に対してWBVを用いた痙縮抑制効果を検討し,ROMやMAS,歩行能力の改善を認めた。我々は,振動刺激による上肢への痙縮抑制効果をこれまで報告しているが,本研究でも同様に下肢へWBVを用いることで下肢の痙縮が抑制され,結果的に歩行能力が改善した。これは固有受容器が刺激されることで痙縮が抑制され,それに伴い下肢運動機能を改善する可能性を示唆している。今後,症例数の蓄積と歩行解析装置を用いた詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 この片麻痺下肢へのWBVによって,短時間で効率よく痙縮を抑制することが実証されれば,運動療法との併用によって効果的かつ効率的な片麻痺へのリハ医療の提供が可能になる。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top