抄録
【はじめに、目的】 パーキンソン病(以下PD)は加齢に伴う緩徐進行性の神経変性疾患であり,高齢化に伴い今後さらに患者数が増加すると予測されている。また,在宅で生活する外来PD患者数は,総患者数の85%と大部分を占めている。そのため,身体機能の維持・向上,ADLの低下の予防を目的としたPD患者に対する効果的な外来リハビリテーションプログラムの構築が求められる。我々は,第45回日本理学療法学術大会において,集団・個別運動療法とホームエクササイズを組み合わせた当院の外来リハビリテーションプログラムの効果について報告した。しかし,少数例での報告であり,介入終了後の追跡調査は未実施であった。今回は,症例数を増やし追跡調査も含めて検討したので報告する。【方法】 対象は,地域在住のPD患者14名(平均年齢68.4±10.6歳,男性8名,女性6名,平均罹病期間6.2±6.3年,Hohen & Yahr 分類 stage1:1名,stage2:1名,stage3:7名,stage4:5名)であった。当院外来リハビリテーションプログラムは,1回90分,週1回の頻度で3ヶ月間(全13回)を1クールとした教室形式で実施しており,1クールあたり平均5名のPD患者が参加している。プログラム内容は,ストレッチングと筋力増強運動からなる集団運動療法,歩行練習およびバランス練習等を含む個別運動療法,ストレッチングと筋力増強運動を含むホームエクササイズ指導であった。身体機能評価は介入前後および,追跡調査として介入終了3ヶ月後に行った。評価項目は,Unified Parkinson’s Disease Rating Scale partIII(UPDRS-motor),Freezing Of Gait Questionnaire(FOGQ),10m歩行速度,歩幅,2分間歩行距離(2MD),Timed Up & Go Test(TUG),30秒起立テスト(CS-30),Chair Sit Reach Test(CSRT),Trunk Impairment Scale(TIS),Barthel Index(BI)とし,同時刻・同測定環境にて実施した。統計解析は,Friedman検定を用いて,介入前,介入後,介入終了3ヶ月後の群内比較を実施し,その後の多重比較をBonferroniの補正によるWilcoxonの符号付順位和検定を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針に基づき,参加者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。【結果】 介入前と介入後の比較では,UPDRS-motor(p=0.002),CS-30(p=0.003),CSRT(p=0.005),TIS(p=0.007)に有意な改善が見られ,TUG(p=0.02)は改善傾向を示した。また,介入前と介入終了3ヶ月後の比較では,TIS(p=0.016)に有意な改善が見られ,CS-30(p=0.017),TUG(p=0.087),CSRT(p=0.069)は改善傾向を示した。【考察】 先行研究では,PD患者の身体機能の維持および改善には,週2から3回の頻度のリハビリテーション介入が必要であると報告されており,週1回という低頻度での介入により身体機能が改善したという報告は少ない。本研究では,個々のPD患者に応じた多種のエクササイズを実施できたこと,集団運動療法における参加者同士の交流が運動意欲の向上につながったこと,ホームエクササイズ指導により在宅での運動量を確保できたことが,身体機能の改善に寄与したと考えられた。また,UPDRS-motor以外の下肢筋力や柔軟性,体幹機能,動的バランスといった身体機能は,介入終了3ヶ月後も効果が持続する傾向を示した。先行研究では,リハビリテーション介入により,固縮や振戦は変わらないが,柔軟性や筋力は変化するという報告や,一次的な機能障害レベルよりも,能力障害レベルで改善が得られやすいという報告がなされている。本研究においても,上記の結果から,疾患由来の症状は維持されにくく,廃用などの二次的な機能障害の要素を含む身体機能項目は維持されやすいことが示唆された。今後は,比較対照群をもうけ,一年以上のさらに長期の効果について検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 週1回という低頻度の介入でありながら,身体機能に改善が見られたこと,その効果の持続を認めたことから,本プログラムは効率的かつ効果的な新しい外来リハビリテーションの形式になり得ることが示唆された。今後は比較対象群を設け、本プログラムの有効性について更なる検証を実施する予定である。