抄録
【はじめに、目的】 現在、CYBERDYNE社のロボットスーツ「Hybrid Assistive Limb」福祉用(以下HAL)は下肢に障害を持つ方や脚力の弱くなった方の脚力・歩行能力をサポートする福祉用具としての地位を確立すべく、介護・医療施設などへの貸与などを行っている。しかしながら医療分野への応用は未だ模索段階であり発展途上の分野であるといえる。本研究ではパーキンソン病患者に対して両脚型HALを装着することにより、運動機能、バランス能力の改善に有用であるかを検討したので報告する。【方法】 対象はH23.4~H23.10までに当院に入院したパーキンソン病患者のうちHoehn&Yahrの重症度分類II~III、MMSE24点以上で認知症なし、かつ進行中の薬剤調整がない22例(男性:13名、女性:9名、平均年齢71.9±8.7歳)を対象とした。対象者の体型は平均身長157.1±9.1cm、平均体重51.9±10kgであった。方法はまずHALをパーキンソン病患者に装着し歩きやすいと感じるパワーアシストを設定する。「アシストON」と「アシストOFF」の2つの状態で各5分ずつ、アシストがONの状態であるかOFFの状態であるかを患者には伝えずに歩行練習を実施した。練習前、各歩行練習を実施直後にTimed Up&Go test(以下TUG)、10m歩行、Unified Parkinson's Disease Rating Scale(以下UPDRS) partIII項目、自覚的改善効果アンケートを二重盲検にて実施した。これらの検査を実施し、HAL装着が運動機能・バランス能力の改善において有用であったかの検討を行った。各項目の統計処理には対応のあるt検定及びWilcoxonの符号付順位検定を行った。なお優位水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言の精神に基づき治験計画書及び厚生省令第28号「医薬品の臨床試験実施の基準に関する症例」に準じて、岡山旭東病院倫理委員会承認の下実施した。また、患者には十分な説明と同意を得た後実施した。【結果】 UPDRS partIII項目での総得点、自覚的改善効果アンケートでHAL装着前と装着後(アシスト有り、無し問わず)に有意な差が認められた(p<0.01)。HAL装着時のアシストONとアシストOFFではいずれの項目でも有意な差は認められなかった。しかし、一部の症例では著明な歩行速度、歩幅の改善が認められる例もあった。【考察】 本研究のパーキンソン病患者では客観的な指標としてUPDRSに改善が見られた。部分的な改善項目ではパーキンソン病に伴う姿勢反射障害を反映する点が多く、HALを装着して運動を実施したことによる筋緊張の改善、動作学習での効果が見られたと考えられる。HALのアシストONとアシストOFFでは全ての項目において有意差がなく、患者の即時的な運動機能、バランス能力の改善には効果が得られ難いことが示唆された。これは、HALのアシストのタイミングによる差があること、アシスト設定が不十分であること、アシストそのものが運動機能の改善に効果が得られ難いことが挙げられる。しかし、自覚的改善効果アンケートでアシストONとOFFいずれの場合であっても有意な差が認められていることからも分かるとおり、HALを装着したことによる、患者の満足度は高いと言える。客観的な能力の改善が見られることはなくても、「動きやすくなった」、「足が軽くなった」などポジティブな意見が多く聞かれたことも事実である。また、症例の中には歩行速度が2倍近く改善される症例もあり、改善した因子の分析も今後の検討課題と思われる。【理学療法学研究としての意義】 HALを使用することによってパーキンソン病患者の運動機能、バランス能力が即時的に改善される可能性を示すことができた。我々理学療法士がHALをはじめとする医療・介護ロボット分野においての可能性を導き出していくことは意義深いと考える。