抄録
【目的】 認知症のケアやリハビリテーション (リハ)では行動心理症状 (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD)を軽減することがQuality of Lifeの向上に役立つとされている。我々は認知症高齢者に脳活性化リハを考案し、実践している。脳活性化リハの原則は1) 快刺激、2) コミュニケーション、3) 役割、4) 褒めるであり、その目的は快刺激で意欲・生き甲斐を創出し、生活を豊かにすることである。今回、脳活性化リハを無作為化比較試験で実施し、BPSDや身体活動量の変化を検討した。【方法】 グループホーム入居中の認知症高齢者22名 (平均年齢85.9歳、改定長谷川式簡易知能検査; HDS-R 平均9.9点)を対象とし、HDS-Rの得点で層別ブロックランダム割り付け法を用いて介入群12名、対照群10名に分けた。介入は脳活性化リハの代表的なメニューである作業回想法を用い、週2回、1回60分を3ヵ月間、対象者6~7名とスタッフ3~4名のグループで実施した。対照群は通常の生活を継続した。作業回想法は認知症の残存機能である、長期記憶や手続き記憶を活用し、高齢者が体験してきた家事、手仕事、遊び等をテーマに、馴染みの懐かしい道具の使い方を、認知症高齢者が先生となって、若い職員へ動作を交えて指導するように進めた。普段はケアをされる側の認知症高齢者が先生となり、教えるという役割を果たすことで自尊心の改善が期待できる。評価は介入前後で認知症の重症度をClinical Dementia Rating で、認知機能をHDS-R、Trail Making Test-A、時計描画テストで、BPSDを高齢者多元観察尺度、Dementia Behavior Disturbance Scale で、意欲をVitality Indexで、身体機能を握力、片足立ち保持時間、Functional Reach Test、10m歩行速度で、身体活動量を加速度計付歩数計 (ライフコーダーGS、スズケン)で評価した。加速度計付歩数計は介入前後8日間着用してもらい、最初の1日を除いた7日間の平均値を検討した。終了時に介護職員に介入による対象者の変化の有無や自身のケアの変化の有無に関するアンケートを実施した。今回認知症により加速度計付歩数計の装着が困難と判断された8名 (介入群、対照群とも4名)を除いた14名を分析対象とした。統計学的検討はSPSS 17.0を用い、年齢と性別を共変量とした共分散分析を実施し、交互作用を認めた場合、単純主効果の検定を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 高崎健康福祉大学研究倫理委員会の承認を得た。また対象者と家族に書面にて説明し同意を得た。【結果】 介入の参加率は98.8%と高かった。介入群と対照群で高齢者多元尺度の合計点 (p<0.01)と下位項目のセルフケア (p<0.05)、加速度計付歩数計により測定された身体活動時間 (p<0.05)に交互作用を認め、高齢者多元尺度の下位項目の「抑うつ」に交互作用の傾向を認めた (p<0.10)。単純主効果の分析結果より、高齢者多元尺度の合計点 (p<0.01)、下位項目の抑うつ (p<0.05)、身体活動時間 (p<0.10)が対照群で悪化したのに対して、介入群では維持、改善傾向を示した。また高齢者多元尺度の下位項目のセルフケアは介入前から介入群は対照群と比較して有意に自立度が高く、介入後にその差が広がった (p<0.05)。認知症の重症度、認知機能尺度、意欲の指標、身体機能に関しては交互作用を認めなかった。また職員アンケート結果より介護職員は介入により対象者の発話・笑顔の増加、積極性の向上といった変化を感じ、自身のケアにおいても昔話を活用するようになった等の変化を感じていた。【考察】 脳活性化リハは認知症高齢者のBPSDの増悪、ADLの低下、身体活動時間の減少を抑制する可能性が示された。職員アンケートの結果からも笑顔が増え、積極性が高まる可能性が示された。また職員も対象者の潜在能力に気づき、コミュニケーションが豊かになるなど、ケアの質を向上させる可能性も示された。しかし対象者の人数が少ないため、今後対象者を増やして効果を確認していきたい。また介入効果の持続性の有無も検討課題である。【理学療法学研究としての意義】 今後認知症を合併する患者のさらなる増加が予測される中で、理学療法士が治療場面で、通常の理学療法に加えて、脳活性化リハの原則を考慮することで、BPSDの増悪、ADLの低下、身体活動時間の減少を抑制し、より効果的な理学療法を提供できるかもしれない。