理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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睡眠導入剤一回服用が及ぼす健常高齢者の運動・認知機能の変化
上村 佐知子若狭 正彦齊藤 明佐々木 誠佐竹 將宏進藤 進一工藤 俊輔神林 崇
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p. Bd1460

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抄録
【はじめに、目的】 我国の高齢者の不眠症罹患率は38.8%で、そのうちの睡眠導入剤の使用頻度は17.3%とあるが、高齢者の睡眠導入剤の使用による転倒や記憶障害も数多く指摘されている。不眠症治療において頻繁に用いられる睡眠薬、とりわけ高齢者に用いる薬剤は、平衡機能障害や筋弛緩作用、記憶障害を有するものであってはならない。しかし、不眠症の多い高齢者においては未だ報告は少ない。今回、我々は、近年高頻度に使用される睡眠導入剤の一回服用における翌日の高齢者の運動機能と認知機能について、プラセボとの二重盲ランダム比較試験を行ったので報告する。【方法】 高齢健常者14名(男性3名、女性11名;平均年齢64歳)を対象に、ゾルピデム(マイスリー、アステラス社)5 mg, 塩酸リルマザホン(リスミー、塩野義社)1mg 、トリアゾラム(ハルシオン、ファイザー)0.125 mgの一回服用における翌日の運動機能と認知機能について比較を行った。対象者は、事前に健康診断を実施し、深刻な疾患に罹患していない60歳以上の健常高齢者であり、睡眠導入剤をはじめとする向精神薬の薬剤処方がなく、重篤なアルコール乱用や一日10本以上の喫煙行動のないものとした。実験は1週間毎4晩にかけて行い、wash-outのため1週間の間隔を設けた。被験者は睡眠導入剤かプラセボのいずれかを就寝時に服用し、客観的評価および主観的評価を服薬直後、5時間後、7時間後、9時間後、12時間後、15時間後の6回行った。客観的評価は、フリッカー検査 (CFF)、重心動揺テスト(開・閉眼)、Functional Reach Test (FRT)、Timed Up and Go test (TUG)、単純弁別課題(CRT)を用いた。また、主観的評価は、Stanford Sleepiness Scale (SSS)、目覚め感(alertness) (VAS)、居心地(well-being) (VAS)、疲労感(fatigue) (VAS)を記録した。実験場所は、大学の近くの宿泊施設を利用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は秋田大学倫理委員会の倫理規定に準拠している。また、研究への参加は、対象者の方の自由意思によるもので、参加の中止は、被験者自身の意志でいつでもできることを同意書をもって説明した。【結果】 服薬1時間前の22時のデータを共変量とし、薬と時間を要因とした共分散分析を行った。交互作用を確認したのち、薬の主効果についてBonferroniの多重比較を行った。有意水準はp<0.05とした。CFFについては、ゾルピデムがプラセボやリルマザホンと比較して有意に良好であり、覚醒の高さを示していた。TUGでは、ゾルピデムとプラセボがリルマザホンと比較し有意に素早く動き、動的バランスが向上していた。重心動揺閉眼においては、リルマザホンがプラセボよりも有意に安定しており、静的バランスが良好であった。記憶テスト、主観的評価においては、リルマザホンがプラセボやトリアゾラムよりも不良な結果となった。【考察】 これまでに、高齢者に対する睡眠導入剤と転倒、健忘の因果関係は取り上げられてきたが、実際の高齢者の睡眠導入剤服薬後の運動機能や認知機能を検査した研究は数少ない。また、高齢者の転倒時間は夜間から朝に多発するという報告も多く、夜間の排泄行動時の睡眠導入剤の影響は大きいものと考えられる。そこで、近年、高齢者の動的バランス能力や立位歩行・方向転換の指標として有用とされているfunctional reach(ファンクショナルリーチ)testやアップアンドゴーテスト(Up & Go Test)12-13)を用いて、半減期の少ない睡眠導入剤服薬後の翌朝4時と6時以降の残余効果を検討した。高齢者の転倒を反映するパラメーターとして、静的なバランス能力よりも動的なバランス能力が有効とされている。リルマザホンは静的バランスが良好であったが、動的バランスが不良であり、転倒リスクが高いことが予想された。また、記憶や眠気などの主観的評価においても不良であった。しかし、本剤は他のものよりも半減期が長く、中途覚醒や早朝覚醒に効果があるため、薬効から判断すると妥当な結果と考える。ゾルピデムは特に動的バランスにおいて、またトリアゾラムは主観的評価において良好な結果を示していた。ゾルピデムは現在使用出来る睡眠導入剤の中では半減期が短く、また筋弛緩作用をもたらすBZ2レセプターにはほとんど親和性が無いことが知られている。以上のことから、 (1)半減期においては、超短時間型で、(2)ω1選択性の有る、(3)ノンベンゾジアゼピン系の睡眠薬が高齢者に好適な薬剤である可能性が高いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 理学療法対象者において睡眠導入剤使用者は非常に多い。このような対象者への理学療法実施や転倒予防を検討する場合、睡眠導入剤使用後の状態を知ることは意義深いことである。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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