理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
第6頚髄損傷者の自動車への移乗動作における頭頚部・体幹の運動学的特徴
片岡 正教安田 孝志片岡 愛美上田 絵美米津 亮奥田 邦晴
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キーワード: 頚髄損傷, 移乗動作, 自動車
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p. Be0023

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抄録
【目的】 頚髄損傷(以下,頚損)者にとって自動車への移乗動作の獲得は,社会参加拡大に直結するため,理学療法士がその運動学的特徴を理解することは重要である.脊髄損傷者の側方移乗に関する研究では,より高位の損傷者は殿部の移動方向と反対に頭部が移動するRotatory patternを示しやすいことや,頚部と体幹の協調的な屈曲動作による殿部拳上が効率的であることが報告されているが,頚損者を対象にした研究は少なく,特に自動車への移乗動作に関して運動学的特徴を報告したものはない.我々は第46回日本理学療法学術大会で,頚損者の自動車への移乗動作における座位バランスとの関連性について報告し,体幹の前傾動作をコントロールできる能力や環境設定の重要性を示した.本研究の目的は,頚損者の自動車への移乗動作の中で特に頚部・体幹の運動に着目し,その動作方法を分析することとした.【方法】 自動車運転が自立している4名の男性完全第6頚損者A~D(年齢:35~49歳,受傷後12~20年,American Spinal Injury Association(ASIA)神経機能学的分類:C6)を対象に,被験者自身の所有する車椅子から自動車への移乗動作を6台のデジタルビデオカメラで撮影し,ビデオ式三次元動作解析装置ToMoCo VM(東総システム)にて解析・処理を行った.車椅子と運転席のシート高の差は全て5cm以下であった.なお,被験者A~Cは上腕三頭筋の筋力が0,被験者Dのみ両側2であった.被験者の関節点には蛍光マーカーを貼付し,普段行っているように運転席へ移乗するよう伝えた.移乗動作は2回実施し,データの解析には所要時間の短い試技を採用した.デジタイズ処理を行い,殿部の側方移動がみられる区間をDynamic phase,殿部が静止している区間をStatic phaseとした.Dynamic phaseの中でも,殿部移動が大きかったphaseをLift off phaseとし,頭部・殿部の側方移動,頚部屈曲角度と体幹前傾角度の変位について分析を行った.統計処理にはSPSS ver18.0を用い,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究は研究倫理委員会の承認を得た後,被験者に口頭および紙面にて,本研究の主旨,目的を説明し,同意を得た上で実施した.【結果】 全被験者が殿部移動を繰り返し運転席へ移乗しており,Dynamic phaseが複数回観察された.また, Lift off phaseでは全被験者が殿部の移動方向と反対に頭部が移動する,Rotatory patternの動作ストラテジを用いていた.頚部屈曲角度と体幹前傾角度の変位については,被験者B,Cが強い負の相関を示し(それぞれr=-0.98,-0.77),被験者Dのみ強い正の相関を示した(r=0.75).被験者Aにおいては相関がみられなかった.運動パターンは全被験者で異なり,被験者Bは頚部伸展に伴う体幹前傾を,被験者Cはこの動作に加え,さらに後半で頚部屈曲と体幹伸展を同時に行う,2段階のストラテジを用いていた.被験者Dにおいては頚部屈曲と体幹前傾が同時に観察された.所要時間が14.0秒と最も短かった被験者Cは,Lift off phaseの殿部移動速度が最も高値を示した(15.6cm/秒).【考察】 頭部と殿部の側方移動について,全被験者でRotatory patternを示したことから,肘の伸展による殿部拳上を十分に行うことができないC6頚損者にとって,この動作ストラテジは自動車への移乗においても効率的であると考えられた.また,頚部と体幹の屈曲による殿部拳上は効率的であるが,動的な体幹のコントロール能力が必要であるとされる.この動作ストラテジは,上腕三頭筋の筋力が他者よりわずかに強かった被験者Dでしか観察されなかったことから,頚損者の殿部側方移動における動的バランスのコントロールには,わずかな上肢機能の違いが関与している可能性が示唆された.被験者B,Cで観察された体幹前傾と頚部伸展の動作ストラテジは,体幹前傾による重心の過剰な前方変位を防ぐため,その代償動作として頚部を伸展させていると考えられた.さらに被験者Cにおいては殿部移動速度が最も速かったことから,より複雑な頚部と体幹の2段階の運動によって動的バランスをコントロールしていたものと推測された.これらのことから,C6頚損者は自動車への移乗動作において,わずかな上肢機能の差や,それに影響される動的バランスのコントロール能力によって異なる動作ストラテジを選択する可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 頚損者の社会参加拡大に直結する自動車への移乗動作について,理学療法士がその運動学的な特徴を明らかにすることの意義は大きい.本研究は被験者が4名と少なかったが,実際の自動車への移乗動作における運動パターンを示したものであり,理学療法場面での効率的な移乗動作指導の一助になると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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