理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
肢体不自由児におけるJASPERとPEDI・筋厚との関係
─1年間における変形拘縮の進行と関係する要因の検討─
橋口 優大畑 光司澁田 紗央理北谷 亮輔山上 菜月
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p. Be0028

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抄録
【はじめに、目的】 脳性麻痺を始めとした肢体不自由児は身体構造・心身機能の問題を重複して抱えることが知られており、その中でも各関節の変形拘縮の進行は重要な問題の一つである。Bartlettらは変形拘縮の進行が運動機能を低下させる要因となるとしており、これを予防することは理学療法の大きな課題であるといえる。脳性麻痺児における横断的研究では、粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System以下GMFCS)のレベルが高い児ほど下肢関節可動域制限が軽度であることが示されている(Sigridら)。したがって、変形拘縮の状態に運動機能が関係している可能性が考えられるが、変形拘縮の進行と運動機能の関係について縦断的に検討された報告は少ない。本研究の目的は、変形拘縮の進行とGMFCSレベルや日常生活機能との関係、さらに筋厚との関係について縦断的に検討することである。【方法】 対象は特別支援学校に通学する肢体不自由児43名とした(男児24名 女児19名、脳性麻痺30名 遺伝子異常8名 精神運動発達遅滞4名 その他1名)。測定は2010年9月から2011年9月の1年間にて3度測定を行った。変形拘縮の評価は、日本広範小児リハ評価セット(Japanese Assessment Set of Paediatric Extensive Rehabilitation以下JASPER)の変形拘縮評価表を用いた。まず対象をGMFCSレベル1~3群、GMFCSレベル4群、GMFCSレベル5群の3群に群分けを行った。変形拘縮の推移として、JASPERのスコアに時間とGMFCSレベルが与える影響を調べるために二元配置分散分析を行った。次に各群にて変形拘縮の状態と日常生活機能との関係を検討するため、日常生活機能をPediatric Evaluation of Disability Inventory(以下PEDI)の移動項目の尺度化スコアとし、初回測定時のJASPERのスコアとの間のSpearmanの順位相関係数を求めた。さらに、GMFCSで群分けした各群をJASPERの最終測定時のスコアが初回測定時より低い値を示した変形拘縮進行群と最終測定時のスコアが初回測定時と同値もしくはそれより高い値を示した変形拘縮維持群の2群に群分けし、両群の初回測定時のPEDIスコアをMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。筋厚は、超音波画像解析装置((株)GE横河メディカルシステム製)を用いて大腿四頭筋の筋厚を測定し、初回測定時のJASPERのスコアとの間のSpearmanの順位相関係数を求めた。さらに、変形拘縮進行群および変形拘縮維持群にて3度の測定における筋厚の平均値をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医学部倫理委員会の承認を得て、本人とその家族の同意を得た上で測定を行った。【結果】 JASPERのスコアに対する二元配置分散分析の結果は、GMFCSレベルの主効果が有意に認められた(F=10.67、p<0.001)。各群のJASPERのスコアとPEDIスコアの関係は、GMFCSレベル5群においてのみ有意な相関関係を認めた(r=0.58、p=0.029)。しかし、各群における変形拘縮進行群と変形拘縮維持群のPEDIスコアには有意な差が認められなかった。一方、各群のJASPERのスコアと筋厚の関係は、各群において有意な相関関係は認められなかった。しかし、変形拘縮進行群と変形拘縮維持群の筋厚は、GMFCSレベル1~3群でのみ変形拘縮進行群にて有意に低い値を示していた(p=0.026)。【考察】 結果より、GMFCSレベルが低い児ほど変形拘縮の状態が重度であった。また、GMFCSレベル5群では、変形拘縮の状態が日常生活機能を反映しており、GMFCSレベル1~3群では、変形拘縮が進行した児は維持している児と比較して筋厚が薄いことが示された。変形拘縮は長時間の不動化に伴って生じると考えられる。また、日常生活機能の制限が大きいGMFCSレベル5の児では、他のレベルの児と比較して容易に不動化が生じる可能性が高い。ゆえに、少しでも関節運動の伴った自発的な日常生活機能を維持している児の方が変形拘縮の程度を軽減できていた可能性が考えられる。一方、GMFCSレベル1~3の児では、ある程度日常生活機能が維持されており、関節の不動化は生じにくい状態にあるため、変形拘縮の状態と日常生活機能との関係は認められなかったと考えられる。しかし、変形拘縮進行群と変形拘縮維持群では筋厚に差を認めており、変形拘縮の進行には日常生活機能よりも筋厚のような実際の活動量を反映すると考えられる指標が強く関係していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 肢体不自由児において、重症の児では変形拘縮の状態と日常生活機能が関係し、軽症の児では変形拘縮の進行と活動量が関係している可能性が示唆された。今回の結果は、理学療法士として肢体不自由児における変形拘縮の進行を予防するための対策を検討する上で基礎的資料となると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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