理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
Gait-Solution継手付き短下肢装具を使用した体重免荷トレッドミル歩行練習により内反尖足が改善した症例
山中 亮太上倉 洋人川﨑 仁史
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p. Bf1495

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抄録
【はじめに】 脳卒中片麻痺患者において、Gait-Solution継手付き短下肢装具(以下GS-AFO)の使用による歩行能力改善の報告が増えている。しかし、単にGS-AFOを用いただけでは、下腿三頭筋の強い活動が要求されるアンクルロッカー及びフォアフットロッカー時の補助ができず、歩行運動を模した筋力トレーニングの併用を推奨している報告もみられる。今回、脳卒中片麻痺の症例の、GS-AFOを用いて理学療法士の介助による体重免荷トレッドミル歩行練習(以下BWST-ex)を実施し、装具不使用での無杖歩行自立と歩行速度の改善が得られたので報告する。【症例】 50歳代男性。呂律不良・左上肢脱力感で救急搬送され、右被殻出血の診断を受けA病院へ入院した。保存的に加療し、約1ヶ月後に当院回復期病棟入院。約3ヶ月間のリハビリテーション加療後、自宅退院した。既往に2年前に脳梗塞(後遺症なし)あり。【説明と同意】 報告について、本人及び家族へ文書にて説明し同意を得た。【経過】 初回介入時、麻痺側上下肢の筋緊張亢進がみられ、Brunnstrom recovery stage(以下BRS)は左上肢・手指・下肢すべてIII、表在・深部感覚中等度鈍麻であった。寝返り・起き上がりは麻痺側管理不十分のため口頭指示を要し、座位保持自立、立ち上がり・立位保持は麻痺側足部に内反尖足あるも、右上肢支持と非麻痺側優位の荷重により自立、歩行はSHBとT字杖を使用して2動作前型にて監視~介助(麻痺側方向へのふらつく)であった。裸足歩行では、内反尖足によるtoe-clearance不十分がみられ、麻痺側遊脚期の努力的分回しやinitial contactでの全足底接地、立脚中期の膝ロッキングを認めた。10m歩行は13.2秒で21歩、装具なしで16.0秒で27歩であった。高次脳機能障害は注意障害を認めた。 理学療法では、症例の強い希望である復職に向け、不整地及び狭路での無杖歩行自立を目標とした。問題点は、過剰努力による非効率的な動作が内反尖足や歩行時のふらつきを助長していると考えた。そこで、効率的な動作の獲得に向けて、努力性を抑えながら早期から無杖歩行練習を行うことのできるBWST-exをアプローチとして選択し、下肢装具としてGS-AFOを用いた。 BWST-exは、初期は非麻痺側上肢支持を許可し、安定したら上肢非支持で実施した。麻痺側立脚初期には、GS-AFOによるヒールロッカー機構の補助を活用する目的で、理学療法士が踵接地を誘導するように症例の麻痺側下肢に介助を加えた。麻痺側立脚中期以降は、麻痺側股関節伸展を補助し前型歩行となるように誘導した。麻痺側遊脚に対する介助は、自動的な遊脚運動が出現するタイミングに合わせるよう注意して実施した。これらの介助により歩行運動が可能で、過剰努力の結果として筋緊張亢進ができる限り出現しないような免荷量(初回50%から漸減、最終20%)及び歩行速度(初回2.4km/hから漸増、最終8.0km/h)に設定し、GS-AFOの油圧ダンパーも同様に随時変更し実施した。1セット10分を1日2セット程度、2ヶ月間実施した。 2ヶ月後、麻痺はBRSにて左上肢IV、手指III、下肢IVとなり、下肢筋緊張が改善した。内反尖足はほぼ消失し、補装具不使用でも基本動作は全自立となった。GS-AFOを使用すれば不整地及び狭路での歩行が可能となり、跳躍や走行も可能となった。10m歩行は、GS-AFO使用にて5.7秒で9歩、裸足では7.0秒で11歩となり、速度と歩幅が改善した。【考察】 GS-AFOの使用と理学療法士の介助によるBWST-exとの組み合わせにより、前脛骨筋や長・短腓骨筋の収縮力増大、及び下腿三頭筋の痙性改善と随意収縮力増大を主とした下肢随意性の向上に繋がり、内反尖足の改善に至ったと考えられる。このことから、BWST-exは免荷量の調整により適切な負荷量を設定することができるとともに、歩行に必要な筋活動の向上を図ることも可能であり、歩行運動を模した筋力増強運動と同様の効果を有する可能性がある。今後、他症例での検討や筋活動電位の測定を行い、これらの点を明らかにしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 これまで、GS-AFOは更生用装具として用いられることが多かった。しかし、今回の症例で得られた結果から、BWST-exとの組み合わせにより治療用装具としての有用性が示唆されており、今後、我々理学療法士が装具療法の中で積極的に用いていくことが重要であると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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