抄録
【はじめに、目的】 脳卒中ガイドライン2009で、装具を用いた早期歩行練習はグレードAで推奨されているが、急性期病院において早期から長下肢装具(Knee Ankle Foot Orthosis:以下KAFO)を用いた立位・歩行訓練を行う施設は多くない。当院では急性期脳卒中患者に対し、Gait Solution(以下GS)足継手付きKAFOを用いた歩行訓練を超早期から行っている。GS足継手は背屈フリーであり、底屈を油圧制動することで、健常歩行に近い歩行学習が可能になる。今回GS足継ぎ手付きKAFO(以下GS-KAFO)を用いて介入し、早期に自力歩行を獲得して自宅復帰に至った症例を経験したので報告する。【症例】 左内包後脚、視床に脳出血を呈した72歳男性。発症当初麻痺側下肢Brunnstrom Stage(以下B.R.S.)2、感覚は表在覚・深部覚ともに重度鈍麻であり異常感覚が認められたが、高次脳機能は正常であった。座位保持は上肢支持により同一肢位保持は可能だが、感覚障害により体動時の身体制御困難により見守りを要した。起立・立位は支持性不十分な上、立ち直り反応減弱により中等度介助を要した。【説明と同意】 本研究の内容は当院倫理委員会にて承認され、対象症例には研究の説明と同意をえて行った。【経過】 本症例は第5病日から歩行訓練を開始した。当初は、運動麻痺と感覚障害により麻痺側Swing困難で歩行リズムが稚拙であった。そこでGS-KAFO装着下にて後方から体幹を抱え、麻痺側下肢のSwing時、踵接地の位置やタイミングをコントロールした。介助歩行は一定速度で、2動作前型にて行った。第10病日にはB.R.S.3に向上し、随意的な膝関節伸展がみられたため、KAFOの膝継手ロックを外しての歩行を開始した。これによりSwingに向上みられたが、股関節外転・外旋の代償を認めたため、これを補正した。第19病日よりAFOへカットダウンしての歩行練習を継続した。麻痺側立脚期で膝関節の過伸展がみられたため、GSの油圧変更を行い、これを補正した。第38病日で回復期病院へ転院となり、この時下肢B.R.S.4、感覚は表在覚・深部覚ともに中等度鈍麻、座位保持・起立・立位保持は自立、歩行はAFO装着し中等度介助でFIM98点であった。その後回復期病院で経過され、第189病日には下肢B.R.S.5、感覚は表在覚・深部覚ともに足部では中等度鈍麻、その他軽度鈍麻で異常感覚は残存、FIM119点となり、自力歩行を獲得しての自宅復帰を果たした。【考察】 GS足継手は踵ロッカー機能を補助する特徴がある。踵ロッカー機能の創出により、GS足継手の油圧制動が働き、更に背屈フリーであるため滑らかな体重移動が可能になることで立脚終期での股関節伸展を促し、遊脚初期の発動源である下腿三頭筋腱を伸張させることでSwingを創出する。また、油圧は4段階に設定可能であり、運動麻痺の段階に合わせて調整可能である。本症例は麻痺側下肢の支持性不十分であり、KAFOの膝継手ロックが必要であった。このような症例では介助歩行の際、初期接地と、正しいAlignmentを整えて体幹の安定を保障することが大切である。Yoshioらによると、歩行はオートマティックな運動であり、介助者は正しいAlignmentのもとで、踵接地や足部の位置・方向・リズムをコントロールし、交互型の歩容を促すことにより、立脚後期での股関節伸展を創出させることが大切であると述べている。このことにより腸腰筋の伸張を促しSwingを創出させ、さらに、リズムを整えることで網様体脊髄路への情報入力が増強されるため、体幹・骨盤周囲筋・下肢近位筋が賦活され、運動麻痺の改善が得られると思われる。また、早期からの歩行訓練による足底感覚刺激入力により、左半球へ刺激入力の効果で、感覚障害の改善が得られたと推測される。急性期から装具療法による早期歩行を行っても、回復期病院において治療方針・主義の違いにより急性期でのリハビリが十分に生かされないケースがある。当院と本症例の転院先病院とはリハビリテーション科職員の交代派遣学習を行っている。これにより相互のリハビリに対する理解を深めることで装具療法の共通認識を持つことができ、同じ治療方針でリハビリを行えた。これにより本症例が比較的早期に歩行を獲得し、自宅復帰に至ったのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本症例は早期からGS-KAFOを用いての歩行プログラムを実施し、早期からの支持性向上や感覚障害の改善を行えた。さらに、急性期病院と回復期病院のシームレスな連携により、歩行を獲得しての自宅復帰に結び付けることができた。