抄録
【はじめに、目的】 我々は,先行研究で人工股関節全置換術(THA)後の健康関連QOL(HRQOL)に年齢や非術側変形性股関節症の有無が特に関連することを報告した.また,THA前後の身体機能とHRQOLの関係についても検討し,それぞれの項目は同時期で関連が認められることを報告してきた.しかし,後者の報告は異なる時期の身体機能,特に入院期間中の身体機能と退院後のHRQOLに関係があるかについては不明であった.そこで本研究では,入院期間中の身体機能と退院後のHRQOLとの関係を探索することを目的とした.【方法】 対象は2007年7月から2011年7月までに初回片側THAを行い演者が担当した症例のうち,除外基準に該当しなかった41名(年齢58.0±6.1歳,女性37名,男性4名,術後入院期間14.4±1.7日)とした.除外基準は,先行研究の結果を踏まえて,1)年齢が39歳以下または70歳以上,2)非術側変形性股関節症を有する,3)記録の不備があった症例とした.検討項目は,入院時(術前),退院時(術後2週時)の身体機能と退院後の初回医師診察時(術後7週時)のHRQOLとした.身体機能は,股関節屈曲伸展アークのROM値,Hand-Held Dynamometerで測定した股関節外転と膝関節伸展の筋力値,10m最大歩行速度と6分間歩行距離の歩行能力値とした.ROM値,筋力値は術側のみの値とした.HRQOLはSF-36v2の8下位尺度の値とした.統計解析は,これらの項目の関連を知るために主成分分析を行った.データの集計と解析は,SPSS ver19.0 for Windows(日本アイ・ビー・エム社)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究における調査・測定項目は,日常診療でも必要な情報であり,実験的な介入を行ったものではない.しかし,対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い,研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た.さらに,弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認も得ている.【結果】 各項目は3つの成分に分けられた.第1主成分は寄与率29.12%,第2主成分は18.65%,第3主成分は9.20%であった.第1主成分に抽出された身体機能の項目は,術前の6分間歩行距離(主成分負荷量0.65),歩行速度(0.64),股関節外転筋力(0.54),術後2週時の歩行速度(0.68),股関節外転筋力(0.66),6分間歩行距離(0.55),膝関節伸展筋力(0.52)であった.HRQOLの項目は,SF-36v2のVT(0.57),RP(0.56),PF(0.54),BP(0.54),MH(0.53)であった.第1主成分に抽出されなかったRE(0.59),GH(0.45),SF(0.44)も中等度に関与していた.第2主成分には,術前の膝関節伸展筋力(-0.52)とHRQOLのRE(0.64),SF(0.59),GH(0.49)が抽出された.第3主成分には,術前の股関節屈曲伸展アーク(0.73)と術後2週時の股関節屈曲伸展アーク(0.55)が抽出された.【考察】 第1主成分は,HRQOLの項目が全て中等度以上に関与していたことから術後7週時のHRQOLを反映する成分であると考える.この成分には,身体機能のうち,術前・術後2週時の股関節外転筋力や歩行能力,術後2週時の膝関節伸展筋力も含まれていた.この結果から,術前や入院期間中の股関節外転筋力や歩行能力,膝関節伸展筋力に関わる介入は,術後のHRQOLに関与すると考える.また,術後の身体機能のうち,術前の膝関節伸展筋力や術前後の股関節ROMは,身体機能の中でも異なる性質を示す可能性がある.今後は,症例数を増やすとともに長期結果ではどのような傾向を示すのかを明らかにしたい.【理学療法学研究としての意義】 THA前後の身体機能とHRQOLの関係を示した.これらの情報は,術後の理学療法を展開していく上で着目すべき身体機能を明確にできる点で有益である.