抄録
【はじめに、目的】 我々は、術後可動域の推移特性として、術後2週屈曲可動域が90°に満たない症例では、術後4週屈曲可動域が術前屈曲可動域以下でかつ110°に満たないオッズ比が14倍であることを報告した。しかしこの報告では術後2週屈曲可動域が90°という具体的な基準が設けられるが、術前屈曲可動域を反映していないこと、術後屈曲可動域の影響因子について検討がなされていない問題があった。本研究では、術前可動域・術後屈曲可動域の推移から術後4週屈曲可動域の期待値を算出する重回帰式を求め、重回帰式を用いた期待値と術後4週屈曲可動域実測値の比較から、期待値に達しない乖離因子について検討することを目的とした。【方法】 2010年11月から2011年9月までに当院にてTKAを施行した患者169名のうち96名を対象とした。除外項目として関節リウマチ・大腿骨顆部壊死症、使用機種(PS-type fixce-bearing)とした。対象者は全例PS-type mobile-bearing使用とした。計測項目は、可動域計測・画像所見とした。可動域計測は、術前・術後1週・2週・3週・4週時に屈曲・伸展・下腿骨体軸内旋可動域(以下、内旋)・外旋可動域(以下、外旋)を計測した。内旋・外旋のみ計測は術前・術後4週時とした。計測は、2人1組で他動的に計測を実施し、1°刻みとした。屈曲・伸展の計測方法は、日整会の規定に準じた。内旋・外旋の計測は岩崎らの報告に準じ、膝関節屈曲90°座位姿勢における脛骨粗面の回旋変位量を算出した。画像所見は、術前時のFTA・insall-salvit法(以下、insall値)とした。重回帰式の算出には、術後4週屈曲可動域を従属変数とした。独立変数は、術前可動域計測・画像所見6項目を用いた術前重回帰式(以下、術前回帰式)、術前6項目に術後1週屈曲可動域を加えた7項目を独立変数とした術後1週重回帰式(以下、1週回帰式)、術前項目に術後1週・2週屈曲可動域を加えた8項目を独立変数とした術後2週重回帰式(以下、2週回帰式)、術前項目に術後1週・2週・3週屈曲可動域を加えた9項目を独立変数とした術後3週重回帰式(以下、3週回帰式)の4つの重回帰式を算出した。また算出された術後4週屈曲可動域の期待値と実測値との乖離因子について検討するため2週回帰式を使用し、実測値が期待値以上であった40名(以下、改善群)と実測値が期待値以下となった56名(以下、低下群)の2群間比較を実施した。統計処理にはSPSS15.0にてmann-whitneyのU検定を使用し、有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究にあたり患者には十分な説明の上、同意を得た。【結果】 術前回帰式は、術後4週屈曲可動域=術前屈曲×0.555+術前外旋×2.946+25.07となった。1週回帰式は、術後4週屈曲可動域=術前屈曲×0.310+術後1週屈曲×0.445-insall値×25.075+61.985、2週回帰式は、術後4週屈曲可動域=術前屈曲×0.199+術後2週屈曲×0.658-insall値×26.174+49.838、3週回帰式は、術後4週屈曲可動域=術前屈曲×0.153+術後3週屈曲×0.781-insall値×17.063+26.003であった。2週回帰式で算出された改善群と低下群で有意差を認めた項目は術後3週屈曲(p=0.001)、術後4週屈曲(p=0.001)・術後4週内旋(p=0.001)・術後4週外旋(p=0.001)で、術前項目での有意差は認めなかった。【考察】 TKA術後可動域への影響因子は、術前可動域・FTA・膝蓋骨高位など様々に報告されている。本研究の結果から術後4週屈曲可動域の期待値に術前外旋・insall値による影響が示唆された。2週回帰式からの期待値と術後4週屈曲可動域の実測値での乖離の有無による比較から術後3週屈曲、術後4週屈曲・内旋・外旋に有意差を認めた。つまり実測値が期待値に達しない症例では、回旋可動域が制限されている可能性が考えられた。本研究では全例でPS-type mobile-bearingを使用したことからインサート自体に回旋許容がされる機種であっても、回旋可動域の獲得が術後4週屈曲可動域に影響を与えることが推察された。【理学療法学研究としての意義】 TKA術後4週屈曲可動域の期待値を算出できる重回帰式を明らかにした。期待値と実測値の乖離に影響する因子として回旋可動域が挙げられ、可動域獲得に回旋可動域の重要性が示された。