抄録
【はじめに、目的】 人工膝関節全置換術(以下TKA)後のリハビリテーションでは、膝伸展筋力の獲得が重要である。TKA後は術後経過とともに、運動機能と筋力が向上することが報告されている。筋肉量の増加は、筋力の増加につながるはずである。本研究の目的は、TKA後の下肢筋肉量と膝伸展筋力の回復過程を明らかにすることである。【方法】 対象は2010年6月から、当院でTKAを施行した患者のうち、調査可能であった23名35膝である。手術時平均年齢は73.2±4.5歳、平均BMIは24.5±3.5であった。対象は全例、変形性膝関節症で、平均在院日数は19.8日(14日~26日)であった。膝伸展筋力はBIODEX社製BIODEX System4により、膝屈曲70°での膝伸展等尺性筋力を測定し、体重で除し、体重比を算出した。下肢筋肉量はBiospace社製Inbody530を用いて測定を行った。方法は両足底と両手掌で合計8点の接触型電極を用いて、電気抵抗により、四肢と体幹に分けた筋肉量を測定し、術側の下肢筋肉量を算出した。筋肉量は水分と蛋白質の合計を値とした。膝伸展筋力は、術前・退院時・術後3カ月・6カ月・1年の推移を比較した。下肢筋肉量は、インプラントによる電気抵抗を考慮して、退院時から1年の推移を比較した。統計解析は、一元配置分散分析を行い、水準間の有意差検定にBonferroniの方法により多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 検査の内容と方法を説明し、被験者の同意を得た上で実施した。【結果】 膝伸展筋力は、術前79.7±30.0%、退院時55.1±24.3%、術後3カ月83.6±28.2%、術後6カ月101.5±32.4%、術後1年106.0±37.7%であった。一元配置分散分析で群間に有意差が認められた(p<0.001)。各水準間での差の検定では、術前と術後3ヶ月、術後6ヶ月と術後1年の間において有意差が認められなかった。その他の水準間では有意差が認められた(p<0.01)。下肢筋肉量は、退院時5.6±1.5kg、術後3カ月5.3±1.3kg、術後6カ月5.2±1.3kg、術後1年5.3±1.3kgであった。一元配置分散分析の結果、下肢筋肉量は術後一年まで有意差はみられなかった(P=0.593)。【考察】 TKA後の筋力抑制因子は、疼痛、筋肉量低下、心因が挙げられる。術後、疼痛の軽減、不安の軽減は改善が見込まれる。下肢筋肉量は術後1年において変化がみられなかった。筋力は、退院時に術前と比べ有意に低下を示したが、術後3か月で術前と同程度の筋力に回復し、術後6カ月で術前より有意に筋力増加を示した。術後6カ月と1年では同程度の筋力を維持していた。これらを合わせると、筋量増加による筋力増加ではなく、筋力の発揮しやすい状況が出来てくることで活動する運動単位の増加により、膝伸展筋力は改善傾向にあると考えられる。したがって、TKA術後6ヶ月までの筋力増強練習は、腫脹を抑え低負荷高頻度で神経系の活性化を促し、筋力の向上を図る事が必要であり、術後6カ月以降では、筋量増加のため、負荷を増加しての筋力増強練習が必要となっているのではないかと考える。しかし、通院回数も減少し、自主練習の把握が出来ていないことから、筋力が増加しない要因を検討していく必要がある。筋力と筋量に関して、影響を与える因子とその影響度を検討することが、今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 筋力の発揮は、筋を支配する運動単位の興奮状態と筋の断面積により決定される。既存の報告では、筋肉量と筋力の推移を併せて追跡調査した報告はみられず、本研究は理学療法研究として、意義のあるものと考える。