理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
足部の位置が前十字靱帯損傷者の膝関節動態に与える影響
櫻井 愛子原藤 健吾工藤 優飯田 智絵砂田 尚架福井 康之増本 項大谷 俊郎
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p. Ca0249

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抄録
【目的】 非接触型の膝前十字靭帯(ACL)損傷は,急激な方向転換や着地動作時に,膝関節軽度屈曲・外反,足部外転(Knee-In,Toe-Out)で生じることが多いとされている.しかし,膝関節が軽度屈曲・外反位で,脛骨が内旋・前方偏位することによって生じるとの報告もあり,ACL損傷の受傷時のkinematicsに関しては議論が続けられている.我々は,第46回日本理学療法学術大会において,スケーティング動作における足部の位置が膝関節角度変化量に与える影響について検討し,Toe-Outで膝関節外反・内旋角度変化量が増大するという結果から, Toe-outは他の足部位置と比較しACLに過負荷な肢位である可能性が高いことを報告している.しかし,健常者,ACL損傷膝,非損傷膝における角度変化量の比較では明らかな差を得ることができなかったため,症例数を増加することにより角度ピーク値,変化量に加え波形パターンの分析を行い,ACL損傷患者における特性を示すことを目的とした. 【対象および方法】 ACL損傷患者13名,損傷側13膝・非損傷側12膝(年齢23.1±7.2歳,男性5名・女性8名,受傷からの期間4.1±4.8ヶ月),健常者13名13膝(年齢23.5±1.7歳,男性9名・女性4名)を対象とした.  計測は,体表に反射マーカー36点を貼付し,三次元動作解析システムVICON MXを用いて行った.計測動作は,ACL損傷患者でも安全に患側肢へ荷重可能な前後方向スケーティング動作とし,体幹を30度前傾させながら,膝関節60度まで屈曲した後完全伸展させるよう指示した.足部の位置は,中間位(Toe-N),20度内転位(Toe-In),20度外転位(Toe-Out)の3条件とした. AndriacchiらのPCTを用いて膝関節内外反(外反+),内外旋角度(内旋+)を計算し,静止立位角度により補正した.膝関節角度の開始値とピーク値から内外反・内外旋角度変化量を算出し,ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝のToe-N,Toe-In,Toe-Outの条件下における比較を行った.統計学的解析にはANOVA,Post hocとしてSNK testを用いた(p<0.05).また,スケーティング動作1周期の波形とピーク値から,各被験者内における内外反・内外旋角度のパターン分析を行った.【説明と同意】 国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を受け,対象者に充分な説明を行い同意を得て実施した.【結果】 全膝における膝関節角度ピーク値のToe-OutとToe-Inの差は,外反16.3±9.1°内旋-6.4±6.1°であり,Toe-Inと比較し,Toe-Outで膝関節が外反・外旋していた.Toe-In,Toe-N,Toe-Outの各条件における膝関節外反・内旋変化量の値を,ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝群内で比較した結果,全群ともにToe-InよりもToe-Outで有意に大きな値を示した.ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝の各群間における有意差は認められなかった. 各被験者内における膝関節内外反角度パターンを分析した結果,Toe-In,Toe-N,Toe-Outの各条件に関わらず同一方向への波形パターンを示すものが,健常膝では13 例中7例(53.9%)であったのに対し,ACL損傷膝では13例中10例(76.9%),非損傷膝では12例中9例(75.0%)に認められた.内外旋角度パターンにおいては,同一パターンを示すものが健常膝では13例中4例(30.8%)であったのに対し,ACL損傷膝では13例中7例(53.8%),非損傷膝では12例中8例(66.7%)に認められた.【考察】 今回の結果では,Toe-Outで足部が外転すると,膝関節の外反変化量,内旋変化量が増大するという前回の報告と同様の結果を示した.スケーティング動作のToe-Outでは,Toe-Inと比較し膝関節内旋ピーク値は小さいものの,スポーツなどのHigh Demanding Activityになると,更なる変化量の増大に伴い,ピーク値の上昇が生じることが予測される.よって,この結果はKnee-In,Toe-OutがACL損傷の危険肢位であること,脛骨の内旋変化量の増大がACL損傷の危険因子であるという仮説を支持するものであり,Toe-Outは他の足部位置と比較してACLに過負荷な肢位であることが示唆された. 一方,各被験者内において膝関節内外反・内外旋角度のパターンを分析した結果,健常膝ではToe-Outで膝関節外反・内旋,Toe-Inで膝関節内反・外旋と,足部位置により異なる角度変化パターンを示すものが約半数に認められたのに対し,ACL損傷膝,非損傷膝では足部位置に関わらず,膝関節外反・内旋と同様のパターンを示すものが多く認められた.これらの結果から,ACL損傷者では足部のStiffnessが低く,膝関節外反・内旋のACLに過負荷な方向に運動が生じやすい特性が示唆された. 【理学療法学研究としての意義】 今後は,足部位置に関わらず同一のパターンを示した被験者のLaxity,筋力,足部の形態も含めて分析をすすめ,靱帯再建後の理学療法,予防へのアプローチにつなげていく.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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