抄録
【はじめに、目的】 歩行における膝回旋運動はわずかであり、臨床における歩行分析にて膝回旋運動を評価することは非常に難しいが、膝回旋筋を制御することで歩行時痛が軽減する症例を経験する。我々は第45回本学会にて、下肢アライメントと歩行での内側・外側ハムストリングス筋活動比(M/L比)の左右関係に着目し、下腿外反もしくは外旋側は外側ハムストリングス(LH)、反対側は内側ハムストリングス(MH)が優位である例が多いことを報告した。また、第46回本学会ではtoe-outおよび後足部回内外でのスクワットにおいてLH筋活動が優位になりやすいことを報告した。今回は、膝回旋筋であるMH、LHの筋活動およびM/L比を、非荷重位での膝自動運動と歩行とで比較しその関係性について検討を行った。【方法】 対象は膝に障害のない健常成人13名26肢(男性8名、女性5名、平均年齢26.3歳±2.0歳)である。測定課題は1、非荷重位での膝自動屈曲運動(自動屈曲)および膝自動伸展運動(自動伸展)2、10m歩行である。詳細を以下に説明する。1、自動屈曲および自動伸展:腹臥位での股関節内外転中間位、膝伸展位から自動屈曲を最大屈曲まで行い、続けて自動伸展を行った。屈伸時間は屈曲、伸展とも各3秒間と規定し、3回施行した。2、10m歩行:被験者に自由な速度で10mの歩行路を3回歩行させた。筋活動の計測:半腱様筋(ST)、半膜様筋(SM)、大腿二頭筋(BF)の筋活動を計測した。筋活動の記録には表面筋電計(Megawin Version2.0、Mega Electronics社、サンプリング周波数1000Hz)を用いた。得られた筋活動のRoot Mean Square(RMS)振幅平均値を算出し平均値を各筋のRMSとした。膝屈曲45°での最大等尺性収縮を100%として正規化し、%RMSを算出した。分析には、自動屈曲は屈曲開始後から1.5秒間、自動伸展は伸展終了前の1.5秒間を用い、歩行は歩行路中間にて波形の安定した3歩行周期の踵接地前後0.4秒間の筋活動を用いた。STとSM、2筋の平均値をMH値、BFをLH値、MHに対するLHの割合を内外側ハムストリングス筋活動比(M/L比)と定義した。3筋の%RMS、STとBFの筋活動比(ST/BF比)、SMとBFの筋活動比(SM/BF比)、M/L比を2つの測定課題で比較した。統計学的解析には、Spearmanの順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には研究の主旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】 自動屈曲と歩行との比較では、ST(rs=0.77,p<0.01)、SM(rs=0.73,p<0.01)、BF(rs=0.58,p<0.01)すべての%RMSに正の相関関係が認められ、ST/BF比(rs=0.50,p<0.05)、SM/BF比(rs=0.42,p<0.05)、M/L比(rs=0.41,p<0.05)も正の相関関係が認められた。自動伸展と歩行では、ST(rs=0.45,p<0.05)とSM(rs=0.56,p<0.05)には正の相関関係を認めたが、BF(rs=0.02,p=0.96)には認められなかった。【考察】 自動屈曲と歩行における筋活動およびM/L比に相関関係が認められ、非荷重位での筋活動が歩行にも反映されていることが示唆された。我々は、先行研究で下腿外反もしくは外旋アライメントにて歩行時のBF筋活動が高まることを報告したが、下肢アライメントと自動屈曲を評価することで歩行時のM/L比を推測できると考える。また、自動屈曲でのM/L比を調整することは歩行での膝回旋ストレスを軽減する可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 歩行での膝回旋運動についての報告は散見されるが、まだ十分に解明されたとは言い難い。本研究で非荷重位での膝自動運動と歩行との筋活動の関係性を示すことができた。MHとLHの筋バランス不良や膝回旋異常により障害へと結びつく可能性があると考えているが、明確な評価法がないのが現状である。歩行での膝ストレスは他関節との関係が多分に影響するが、自動屈曲でのM/L比は歩行分析の一助になるものと考えている。