理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
反重力トレッドミル(ALTER-G)の即時的運動効果について
中村 雅隆曽川 紗帆光野 武志宮薗 彩香尾池 拓也烏山 昌起工藤 僚太松永 拓也蔵本 千帆坂田 辰廣藤本 あずさ小原 奈津河上 淳一宮崎 優田原 敬士
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p. Ca0256

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抄録
【はじめに、目的】 下肢疾患を有する患者様は様々な要因により、歩行能力が低下している。兼ねてより、高齢者に対する歩行運動の重要性は指摘されているが、下肢疾患を有する患者様においては長時間の歩行は困難であることが多い。これまで、そのような患者様を対象に、体重免荷式トレッドミル歩行(Body Weight Supported Treadmill:以下、BWST)を行い、効果を得ているという報告が散見される。今回使用したALTER-G社製反重力トレッドミル(以下、ALTER-G)は、従来のハーネスシステムやプールシステムと異なり、空気圧を利用し部分免荷を行うものである。過去に空気圧を利用したBWSTの報告は少なく、臨床データは散見されない。そこで今回、下肢疾患を有する患者様を対象に対し、下肢に荷重の負担が少ないBWSTマシンALTER-Gを用い、その即時運動効果を検討することを目的とした。仮説は、「ALTER-Gにおける歩行運動は歩行能力を向上させる。」であった。【方法】 下肢疾患を有する17名(男性5名、女性12名、平均年齢67.94±16.26歳、平均身長158.14±10.32cm、平均体重62.75±18.36kg)に対して、ALTER-Gにて30分間の歩行運動を実施した。循環器、呼吸器に障害のある者は除外した。歩行能力の判定は、運動前と運動後に10m平均歩行速度と、10m間の歩数を測定した。それぞれの運動前と運動後の値をウィルコクソン符号付順位和検定にて比較検討した。有意水準は5%未満とした。ALTER-Gの免荷量とスピードは任意にて疼痛自制内で設定し、傾斜はつけずに歩行させた。下肢疾患の内約は変形性膝関節症、変形性股関節症、後十字靭帯損傷、半月板損傷、運動器不安定症であった。対象者の日常生活活動(以下:ADL)は全員自立しており、独歩可能であった。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、全被検者に実験の趣旨を十分に説明し、実験に参加する承諾を得て実施した。【結果】 10m平均歩行速度において、運動前(Median 55.20m/min)に比べ、運動後(Median 61.73m/min)に統計学上有意に増加した(P<0.01)。また、10m間の歩数において、運動前(Median 20step)に比べ、運動後(Median 18step)に統計学上有意に減少した(P<0.01)。【考察】 下肢疾患を有する患者様に対して、ALTER-Gにて歩行運動を行う事で歩行速度の増加と10m間の歩数の減少が認められた。10m間の歩数の減少は、歩行時の歩幅の拡大を意味する。これは下肢の関節運動において、免荷歩行を行う事で、立脚・遊脚時間の延長が学習されたためと考える。ハーネスシステムを用いたBWST使用中の動体解析では、歩幅の拡大が認められたという報告がある。本研究より、BWST後であっても、少なからず短期間の歩幅の拡大が認められた。歩行が不安定な高齢者は、歩幅を小刻みにして転倒のリスクの軽減を図っている。本研究の対象者においても小刻みに歩行する者が多かった。しかし、ALTER-G内の歩行によって、円滑な下肢の動作と重心移動が促された事により、安定した歩行が可能となり、歩幅が拡大し、結果的に10m平均歩行速度の増加に繋がったと考える。今回の研究では測定条件や疾患にばらつきがあるため、今後は測定条件や疾患を統一し、より詳しくALTER-Gの効果を検討していく必要があると考える。また、症例数を増やして中期、長期効果に関しても引き続き調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 ALTER-Gは従来のBWSTのデメリットが解消された機器である。マシンの使用方法は簡便であり、免荷量を体重の1%刻みで調節できる。また、補助者を必要としない上、プールシステムと違い濡れる事がないため、術後の患者様にも早期から免荷歩行運動が可能となる。ALTER-Gにおける効果を検討することで、より多くの患者様における、歩行能力向上の一助になると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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