抄録
【はじめに、目的】 足部は歩行において、外界と接する唯一の部分であり,その構造基盤となる足部アーチは,機能的にも重要な役割を担っている.特に,足部における内側縦アーチの低下は,静止立位時に足圧中心(以下,COP)の内側変位をもたらすことや,シンスプリントなどの障害に関係すると言われている.本報告は足部形態と歩行立脚期における踵骨軌跡,COP軌跡との関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は下肢に既往歴のない健常男性41名とした(平均年齢:26.6±4.7歳).使用機器は,VICON MX(Vicon Motion System : カメラ7台,200Hz),床反力計(AMTI:2台,200HZ),マルチン人体計測器を使用した.足部の形態計測は,アーチ高率とNavicular Drop Test(以下,NDT)を計測した.アーチ高率=(舟状骨租面下端の高さ)/(足長)×100,NDT=(椅座位非荷重下の舟状骨粗面下端の高さ)-(静止立位時の舟状骨粗面下端の高さ).計測肢位は,足隔を肩幅とし,目線は目の高さの前方とした.計測は一人の検査者が実施した.運動課題は十分な練習の後、7mの自然裸足歩行を3回計測した.マーカは全身の13体節に35個を貼付した.解析は,歩行課題での左立脚期における1) 踵骨軌跡幅:左踵骨のX軸・Z軸での最大値から最小値を引いた数値を足長で除し,X軸を踵横振れ幅,Z軸を踵挙上高とした.2) COP角:COP軌跡の単脚支持期から両脚支持期に移る際のCOP軌跡の角度を算出した.角度算出に用いた3点は,立脚期開始時の座標点,終了時の座標点,最外側となる座標点とした.また,踵接地時とつま先離地時にCOP軌跡が乱れる区間は除いた.アーチ高率は低群・高群(境界:13%),NDTは小群・大群(境界:5mm)とそれぞれ2群に分類した.上記パラメータの各群間の差を1元配置分散分析にて検証した.さらに,1),2)のパラメータ間での相関,アーチ高率とNDTの相関を相関係数にて検証した.【倫理的配慮、説明と同意】 所属施設における倫理委員会の許可を得た.対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明し同意が得られた者のみを対象に計測を行った.【結果】 アーチ高率の各パラメータの平均値は,COP角が低群164.33°,高群152.04°,踵横振れ幅が低群8.89mm,高群10.78mm,踵挙上高が低群66mm,高群76.97mmとなり,COP角(P<0.01)と踵挙上高(P<0.05)において低群と高群の間で有意差が認められた. アーチ高率が13%未満の場合,COP角が158°以下が22例中5例(23%)に対し,アーチ高率13%以上ではCOP角158°以下は19例中16例(84%)であった.NDTの各パラメータの平均値には,COP角が小群156.3°,大群160.47°,踵横振れ幅が小群9.36mm,大群10.08mm,踵挙上高が小群68.64mm,大群73.03mmとなり,全てのパラメータで2群間の有意差は認められなかった.歩行パラメータ間での相関はCOP角と踵横振れ幅がr=-0.03(P<0.01),COP角と踵挙上高がr=-0.18(P<0.05)であった.アーチ高率とNDTの相関はr=-0.016(P<0.01)であった.【考察】 今回,アーチ高率は低群と高群の間で,COP角と踵挙上高において有意な差が認められた.アーチ高率の13%未満はCOP軌跡がなだらかとなり,アーチ高率の13%以上はCOP軌跡が急激な変化となる事が認められた.アーチ効率13%以上になる対象に対しては、疾病の有無に限らず、インソールや靴などに対して理学療法的なアプローチをする必要性があると考えられた.また,歩行における踵挙上高は,足趾背屈を伴い,荷重下での足趾背屈はウィンドラス機構によりアーチ構造を高める機能を担っている.アーチ高率13%以上において,踵挙上高が高い傾向を呈したため,静的なアーチ高率が歩行時の動的アーチ変化に影響を及ぼしていると考えられた.アーチ効率を用いた評価が重要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 歩行観察において、アーチ高率という簡易に計測できる指標がCOP軌跡を推定する一つの材料となることが考えられた.さらに,インソール等のアーチ構造に対するアプローチをする際の一助となると考えられる.また、静的な評価で動的な影響を推定することが可能な手法についての検証と開発は、理学療法にとって重要な課題であると考えられた.今後は対象者数を増やすこと,他の歩行パラメータでの検証、開発を行っていく予定である.