理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
しゃがみ動作における矢状面上での仙骨の動きについて
─矢状面上での仙骨と寛骨との動きは一致するのか?─
米山 裕子岡田 覚
著者情報
キーワード: しゃがみ動作, 仙骨, 寛骨
会議録・要旨集 フリー

p. Ca0927

詳細
抄録
【はじめに、目的】 Donaldらは、「前屈動作は腰椎伸展トルクの増大と共に椎間板に損傷を起こし得る圧迫力と剪断力を生み、腰痛の要因となる可能性がある」と述べている。そのため臨床では、前屈動作ではなく脊柱と骨盤の動きを最小限に抑え腰椎伸展トルクの少ないしゃがみ動作を指導している。Marioらの先行研究では、「スクワット動作における、立位から最大限のしゃがみ動作を実施した際の矢状面上における骨盤の動きは、股関節インピンジメント群で14.7±8.4°、健常群で24.2±6.8°の動きを有した」と述べている。また、Brunnerらは、「仙骨は0.2~2mmの回転性の可動を有している」と述べている。Marioらは骨盤の動きについては寛骨を指標としているが、寛骨と連結している仙骨はどのような動きをしているかについては述べられていない。Brunnerらの報告と照らし合わせると、寛骨と仙骨が同等の動きをおこなっていると理解するには疑問がある。本研究では、我々が実施したしゃがみ動作を最大限行った際の矢状面上における仙骨の動きと、Marioらの研究結果である寛骨の動きとを比較、検討することである。【方法】 対象者は、過去6ヶ月以内に入院既往など測定に問題がないと判断した女性20名(年齢:21.9±0.82歳)とした。しゃがみ動作はMarioらの研究方法に準じて実施した。立位開始肢位は上肢下垂位、視線は前方を注視した自然静止立位とした。合図により可能な限り最大限のしゃがみ動作を行った。足部位置は肩幅、しゃがみ動作の速度は自由とし、その他としては特に制限を設けなかった。測定値は3回の試技を行った後、仙骨の矢状面上での回転の動き(以下;仙骨の傾き)を平均値として算出した。測定機器には、加速度計(MicroStone社製MVP-RF8)を2機用いた。基準となる1機は左右踵間中央に設置し、もう1機は第2仙椎部体表へ両面テープを用いて装着した。仙骨の傾きに関しては、動作角度計測ソフトウェア(MicroStone社製MVP-DA2-S Ver.1.1.0)を用いて算出し、X回転角の-回転を矢状面上での前傾とした。開始立位姿勢の仙骨の傾きを0基準点として設定し、しゃがみ動作最終域での仙骨の傾きを算出し、仙骨の傾きとして検討した。本研究における統計解析は、one sample t testを用いた。検定値としてMarioらの寛骨の傾きデータ24.2°を利用した。しゃがみ動作における仙骨回転角はShapiro-Wilk testを用いて、正規分布に従うデータの確認をおこなった。また、すべての検定に関しての有意水準はp=0.01とした。統計解析にはSPSS Ver11J(SPSS JAPAN)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を口頭・書面にて説明を行い、署名による同意を得られた者のみを対象とした。【結果】 Shapiro-Wilk検定では、p=0.612であり、正規分布に従うと判断できた。有意確率はp=0.00であり、有意に差があるという結果となった。しゃがみ動作最終域での仙骨の傾きは5.45±10.1°であった。95%信頼区間では、-23.47~-14.02°となった。【考察】 今回我々は、しゃがみ動作時の仙骨の傾きについて計測した。Marioらは、立位からしゃがみ動作最終域までの骨盤矢状面上の可動性として、寛骨の傾きを指標とし24.2±6.8°の可動性を有したと述べている。本研究では、矢状面上における仙骨は5.45±10.1°の可動性を有したという結果になり、Mairoらの述べる寛骨の可動性24.2±6.8°に対し有意に差があった。Brunnerらの「仙骨は0.2~2mmの回転性の可動を有している」という報告に基づくと、矢状面上において寛骨に対する仙骨の可動性には差があることになる。一般的には、骨盤の動きを上前腸骨棘と上後腸骨棘を指標にした寛骨の動きで表すケースが多く見受けられるが、今回の結果から考えると寛骨の動きは仙骨の動きと同等でなく、それぞれが可動性を有していることを考慮する必要があると示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、しゃがみ動作最終域での仙骨可動性を明らかにすることで、先行研究で述べられている寛骨の可動性とは有意に差があることがわかった。従って、骨盤の動きは寛骨と仙骨が同等の動きをするのではなく、それぞれが可動性を有していることを考慮する必要性があることを示唆する結果となった。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top